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地方の課題は“数字”で理解せよ、出口治明『日本の未来を考えよう』

「まち・ひと・しごと創生」、いわゆる「地方創生」政策が動き出してから約1年が経った。現在では、地方自治体がこぞって総合戦略を策定するようになり、地方に対する注目度も高まっている。
しかし、地方が抱える山積みの課題が消えたわけではない。本稿では、そんな地方の問題を出口治明『日本の未来を考えよう』から考える。
文/山本竜也(2015/11/04)

「課題のデパート」化する地方

地方自治体やそこに住む住民には、多くの問題や課題が突きつけられている。よく耳にするのは「消滅可能性自治体」を回避するために、どうしたら人口減に歯止めをかけられるのか、というものだ。また、持続的な雇用を生み出し、地域経済に循環を生み出すにはどうすればいいのか、という悩みもよく聞く。ほかにも耕作放棄が進む農業、利用者減によって廃止される公共交通期間……地方自治体はいわば「課題のデパート」と化している。

「課題のデパート」が悩ましいのは、取り組むべき課題の「選択と集中」をしなくてはならない点にある。地方自治体には、すべての課題に取り組むような財政余力も、時間も残されていないからだ。先ほど述べた「総合戦略」も、自治体自身で各課題の優先順位をつけていく試みといえる。

しかし、行政の現場はどうだろう。課題に軽重はつけられない、それが首長や地方議員、行政マンの本音ではないか。
地方政治や行政においては、現実的かどうかにかかわらず、すべての課題に取り組む姿勢を見せることが必要となる。その結果、地方政治には「総論賛成、各論反対」が可能なポエジーなスローガンやキャッチフレーズにあふれてしまうのではないか。

そんな「総論賛成、各論反対」を超えて、「課題のデパート」を解きほぐす糸口となる思考法が学べるのが今回紹介する、出口治明『日本の未来を考えよう』(クロスメディア・パブリッシング,2015)である。

日本の未来を考えよう

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数字で見えてくる新しい日本の姿

ライフネット生命保険株式会社の創業者で、読書家としても知られる筆者は、出版にも意欲的だ。筆者には、これまで14冊の著作があるが、そのテーマは、創業記や仕事術、本業である生命保険の解説などビジネス系のものと、歴史・教養ものに分けることができる。しかし、本書はそのどちらにも分類することのできない新機軸である。

本書は、日本と他国をデータで徹底的に比較して、日本の実像を明らかにしようとする作品である。借金、人口、カルチャー、政府と軍事力、治安、教育、国際競争力、新しい産業、女性、インフラ、環境・エネルギーの11テーマに関し、豊富な図表を収録し、提示したデータとその読み解き方、分析、さらに解決策までを縦横無尽に語り尽くしている。
筆者が「はじめに」で述べている内容は、本書の目的と思考法がよくあらわれているといえるだろう。

「形容詞やイマジネーションで物事をとらえるのではなく、客観的な数字やファクトを基準にすれば、実像がより分かり、ムダな恐怖がなくなり、さらに今の自分たちに課された課題が明確になる」

「この本は、できるだけ具体的なデータ(数字)を使って日本の現状を世界(ヨコ軸)や過去(タテ軸)と比較することで、日本が抱えている課題をよりクリアにしていく」

この考え方は、「地方創生」で課題を見極めなくてはならない地方自治体の関係者にとって、まさに必要なものではないだろうか。課題のデパートの中にあって、「ヨコ」の自治体間比較や、それぞれの自治体がたどってきた歴史による「タテ」を探り出すことなしに、有効で持続可能な解決策を見出すことはできない。本書で解説される世界と日本との比較法は、そのまま「地方創生」の現場へ応用することが可能だろう。

たとえば、総務省統計局が毎年発表している「統計で見る市区町村のすがた」は、全市町村のデータを11分野に渡ってまとめたものだ。このデータがあれば、簡単に他自治体との比較・分析ができる。こうした情報は「地方創生」政策が本格化するにつれて充実し、入手も簡単になってきた。

日本のブランド価値は健康?

「地方創生」を考えるヒントとして、本書が浮き彫りにした日本の現状は参考になるものが多い。例を挙げると、「教育」の章では、日本のクラス規模はOECD諸国で3番目に大きく、G7の中では1位の1クラス平均で27.9人という実態が示されている。

また、「新しい産業」の章で提示される観光や農業の成長可能性は、大変参考になる。たとえば、訪日観光客数は、2013年に1000万人超えを果たしたが、世界で見れば第27位であり、今後伸びていけば、大きなポテンシャルがある、との指摘もある。

さらに、農作物輸入が717億ドルなのに対し、輸出は46億ドルとなっていて、今後の輸出余地が高いとも述べている。こうした傾向は、今後の地方自治体の政策に反映していくうえで必ず捉えていくべきものだ。

私が最も驚いたのは、カルチャーの章に書かれている「これほど洋食化が進んでいるにも関わらず、日本人のカロリー摂取量は先進国最低」との指摘だ。ダイエットが一大産業になる日本の現状と相容れない印象を抱かせるデータだが、「健康」はやはり日本のブランド価値なのではないかと感じさせる。健康とインバウンド観光を売りにする自治体が出てきてもおかしくはない。

データを着実に分析することで見えてくる日本の姿……本書が示す実態とそこへ迫るアプローチは、「地方創生」を考える際に一読の価値があるものだといえよう。

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