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2019.10.18

移住してから、仕事をせずに早三年。左鐙地区で「時間がある」を考え続けるお二人の話

 津和野の中で最も自然が豊かな場所の一つ、左鐙地区。その場所に「移住をしてから3年間、仕事をせずに暮らす2人」がいます。
 常識ではなかなか考えられない生き方・暮らし方の実態が気になり、話を聞きに行きました。

|自由に音楽を楽しんでも迷惑にならない暮らしを求めて。
 今回お話を伺ったのは、桐島良介さんといくみさんのお二人。
 本日取材でお伺いしたのは、左鐙地区の奥、角度のきついヘアピンカーブを曲がり、急な坂道のある集落を上った先に潜む一軒家。お二人が空き家バンクで見つけたという大きな2階建の木造住宅の家賃は1万円。
 周囲に家は一軒もなく、段々になった田んぼの跡地がすぐ横に見えます。

「田んぼだったところは大家さんの敷地なのですが、大家さんも頻繁に来られるわけではなく、放っておくと荒れて地盤が緩んでしまうので、定期的に草刈りをしています」と話す良介さん。

 広大なその面積を目の前にすると「自分の家でもないのになぜ」と思わずにはいられません。


(家の目の前の風景。ここの草刈りをお二人でされているとのこと)

 同じ音楽教室で5人のバンドを組んだことがきっかけで出会ったお二人は、東京を中心にバンド活動をしていました。活動進めていくなかで「自宅でも音楽ができる環境を整えたい」と思い、防音設備付きの物件などを探し始めます。しかし、東京で防音設備付きとなると家賃が高かったり、生活スペースが限られてしまったりと満足のいく物件はなかなか見つけられません。

「東京にいるままでは、音楽活動を進められない」という想いから、音楽が十分にできる環境を求め、仕事を辞めバンドメンバーで福岡へ移住します。しかし、福岡に移住してすぐメンバーの状況に転機があり、バンドは解散してしまいます。
残った良介さんといくみさんのお二人は「ここまで来て、会社に戻るのは嫌」という想いから、自由に音楽ができる暮らしができる場所を求め、福岡や広島での生活を経て、左鐙へとたどり着きました。

 家には自分たちで持ち込んだ二つの電子ドラムや大きなサウンドシステムなどが置かれ、スタジオさながらの空間。周囲には家一つ見当たらず迷惑もかからない。左鐙のこの場所が、二人にとっての理想の場所となっています。

|起きたい時間に起きて、お腹が空いたらご飯を食べる。
 一番気になっていた「仕事をせず、どんな暮らしをしているか」という問いに対して返ってきたのは「本当に何もしていないんです」という答え。

「仕事をしていないので、起きる時間もその日にすべきことも何も決まってません。だから、起きたい時間に起きます。僕は8時くらいに起きてコーヒーを飲むのが気持ちいいけど、いくみさんは9時か10時くらいに起きますね。ご飯を『3食、この時間に食べなくちゃいけない』という決まりもないから、お腹が空いたらご飯を食べるし、空いてなければ食べません」と自分の気持ちのままに生活をしている様子を語ってくれた良介さん。
 お金をどのようにやりくりしているのか、という質問に、いくみさんは「たまにバイトが入ってくるので臨時収入もあるけど、基本的に貯金を切り崩し続ける日々です。仕事を探すことはしません。だからと言って、生活をする上で節約をする、ということはあまりないです。だって我慢するのって苦しいじゃないですか。我慢せずに、自分たちが気持ちいいと思う生活をすることを一番にしています」と答えてくれました。

 重ねていくみさんは「先の保証が何もない生活なので、まさか3年も続くとは思いませんでした」とおっしゃるほど、この生活には「決まったこと」「計画」がありません。余りある時間を使いながら、常に「今」を感じて生きています。


(桐島良介さん)

|経済活動には参加していない。けど社会の役割を担っている実感。
 「何もしていない」ので「時間はたくさんある」。そういう若い人にはネガティブなイメージを持ちますが、実は地域社会の中でとても貴重な存在。
 突然近所のおばあちゃんから「買ってきてほしいものがあるけ。近々町に買い物に行くことはないかね」なんて電話が入ってくれば、自分の買い出しと一緒にばあちゃんの用も済ませてあげる。家で一人寂しくすごしている方の元に行けば、2時間以上話を聞いている。手が回りきっていない自治組織のお手伝いもする。家の敷地の周りの土地が荒れていたら、自分で整備して集落環境を守っていく。
 お二人が考える「気持ちのいい生活」には、自分たちだけでなく関わる地域の人とも生きていくということが内包されていました。

「『何もしてない』ので、働いてお金を生み出すという経済活動には参加していません。けど『お金は出せないけど、誰かにやってほしいと思っていた』ということを見つけて、やることができるので、人の役に立つことができていると感じます。そういう意味で、社会に参加している実感がありますね」と語る良介さん。
「”何もしない”って実は一番難しいって思います。生産性がないように見えるから、不安になりますよね。でも若くて時間がある、というだけでできること・頼りにしてもらえることはたくさんあります。人はきっと、時間に余裕が持てるようになると自然と”人助け”をするようになると思います」いくみさんはそう話してくれました。


(いくみさん)

|ただただ自分たちの気持ちがいい生活を。
 お話をお伺いする中で、印象的だったのは「音楽をするために仕事をやめてこの生活を求めたけど、今そこに執着しているわけではない」こと。音楽でお金をもらおう、と考えているわけではないので、不安や焦りもなく、気分が乗った時に音楽に取り組んでいるそうです。
 またこの近所づきあいも誰でもいいわけではなく、地域の方が好きだからできている、とお二人は語ってくれました。「近所だから仕方なく」というネガティブな気持ちではなく「助けてあげたいから助ける」そうです。だからお二人の選んだこの生活は、どんな場所でもできるわけではないとおっしゃっていました。
 ただただ自分たちが気持ち良い生活を続けている方たちなんだなと感じられるエピソードでした。

 「仕事しないで楽に生きていたい」という都会の人がよく見る理想は、非現実ではなく津和野の奥地で実際に行われていました。彼らはいわゆる「ニート」に近いけど、その生活の仕方はとてもカッコよく見えます。
「仕事をする」がすなわち「生きること」だと思っていましたが、お二人の生き方から、人間はもっと自由な思考と行動をしてもいいと感じられました。 

2019.10.18
文章・写真 舟山宏輝

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