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憧れの薪ストーブは、一石で5鳥6鳥も得られる!?役場を辞め、薪ストーブ屋を始めた男が語る、その魅力。

 津和野町の中心部からは少し外れた、津和野町須川地区。自然が溢れるこの場所で、2018年末から薪ストーブのお店がオープンしました。その名も「bluebearの薪ストーブ屋さん」。そこで販売をしている村上久富(むらかみ・ひさとみ)さんにお話を伺ってきました。
 テレビや映画で目にするたびに「家にあったら素敵だな」と何度も考える薪ストーブ。
 しかし多くの人にとって、「うちにおけるのかな」などの懸念から憧れに終わってしまいます。そんな薪ストーブで、なぜ商売を始めたのか。その想いに迫ると、薪ストーブの持つ数多くの魅力に気づかされました。

|一石で、5鳥も6鳥も?薪ストーブの持つ役割と可能性

 取材のためお店に向かうと、そこにあったのは大きな木造の一軒家。どう見ても住宅にしか見えないこの場所で「本当にここでお店をやっているの?」と思わずにはいられませんでした。
 インターホンを鳴らすと、取材を受け入れていただいた村上さんが迎え入れてくれました。玄関を抜けリビングに案内していただくと、そこには計4台の薪ストーブがありました。

ーまさかお店の住所が個人宅とは思いませんでした。この薪ストーブ屋さんは、村上さんのお宅をそのままお店として活用されているのでしょうか。
 はい、自宅兼販売所として活用しています。
実際にこうして家の中で展示されている様子を見て、お客さんが「生活空間にある薪ストーブ」を想像しやすいようになっています。やはりショールームにおいてあるものを見るだけでは、自分の家に設置してあるイメージが湧きづらい。実際に住んでいる空間で販売をすることで、その比較ができるようになります。

ー個人宅で薪ストーブが設置されているのを初めて見ました。使って感じるメリットとしてどのようなものがありますか。
 暖かくなることもそうですが、ここで料理を作るのも楽しいです。
 いくつかの種類を展示していますが、今お店で自演している薪ストーブは、バーモンドキャスティングスのアンコール、という機種ですが、料理をするのにはもってこいです。天板部分は鉄になっており、フライパン料理やパスタが作れます。また炉内ではピザを焼いたり肉のローストを作れたり、灰受け皿は活用次第でオーブンにすることもできます。
 薪ストーブは、使っていると乾燥してくるので、洗濯物の乾燥にはもってこいですね。お客さんが来るときは撤去しますが、普段は部屋の中で洗濯物を干しています。

(インスタグラム@bluebear_woodstoveより

ーまさに一石三鳥というわけですね。
 ここは特に魅力として推し出したいところなのですが、薪ストーブの価値はそれ以外にもまだあります。それは、災害対策と教育の点です。
 冬場の寒い時期に災害時生活インフラが断絶された時、薪ストーブが使える環境であれば電気やガスに頼らず暖をとることや料理することができるようになります。そういった意味で、避難所となりうる公民館や学校にも、ぜひ配備して欲しいと考えています。
 教育の面での価値は、薪ストーブがあることで、子供たちが火と触れ合ったり薪を割ったりという経験がより身近になるということです。
 ガスや電気で日常のほとんどが賄われてしまう現代では、子供が火を扱う機会というのはどんどん減ってきています。危ないから全く近づかない、ということではなく「こうすれば危なくない」をきちんと知っていくべきだなと思います。火との触れ合いや薪割りを通して自然を知れる、など薪ストーブが身近にあることで得られる学びというものはたくさんあると考えています。

 また人が焔から受ける心理的影響もあります。薪ストーブの窓から見える焔は、見ているだけで、心が落ち着くものがあるし、時間に終われる現代から離れて、ゆったりとした時間の流れを感じることができます。それだけでなく、人は焔のある場所に集う、ということも利点として挙げられます。外で焚き火をした時もそうですが、焔のあるところ・暖かいところに、人は自然と集まってきます。家の中で、自然と人が集まる場所を作ることができるのは、コミュニケーションをとる機会にもつながると思います。ぜひ家だけでなくゲストハウスなど初対面が顔を合わせるような場所でも活用して欲しいです。

|「与えられた仕事に「僕」を出して、もっとうまくやろう」に重なった「役場の林業課」

ー一石五鳥、六鳥と得られる薪ストーブですが、その魅力に惹かれていったのはいつからでしょうか。

 もともと役場勤めだったのですが、10年前に農林課の林業係に所属になったことで人生が変わったことがきっかけです。

ー林業係で所属になり変わっていったのはなぜでしょうか。
 役場ではいくつかの部署で働きましたが、林業係は初めて「事業」を扱う部署だったからです。
 僕は昔からずっと「役場の職員っぽくない」と言われていました。仕事の仕方として、与えられた仕事を言われたままする気は全くなくて、仕事の中でどれだけ”自分”を出して、効率よく上手くやれるかということを考え続けてきました。その姿勢が「役場の職員っぽくない」という評価につながったと思います。
 「事業」を扱うということは、事務的な処理をするだけなく「この町の森を守っていくにはどうしたらいいか」や「林業の担い手を増やすにはどうしたらいいか」などと言った問題に着手していくこと。”自分が見つけた問題点を自分が率先して解決していく”という僕の仕事の仕方が、一番やりやすい部署が林業係で、どんどんのめり込んでいきました。

|「都会から来た人の方が田舎の暮らしを楽しんでいない?」

ー確かに、役場勤めから薪ストーブ屋さんというキャリア選択は、一般的に想像される役場職員の方はしないように思います。役場を辞められたきっかけはなんだったのでしょうか。
 林業係の仕事の一環で、林業関係の移住者を増やす取り組みを行ったことがきっかけです。
 移住者が津和野町で暮らしている様子を見ていく中で「都会から来た人の方が、田舎暮らしを楽しんでない?」と気づきました。移住者の方が自給自足の生活などを行っている中で、自分は意外と都会の人と変わらない生活をしていました。
 そこから、自分も田舎の暮らしを楽しもうと動き始め、その時に薪ストーブもやってみたいと思いました。暮らしを楽しんでいるうちに、子育てにもっと力を入れたい、里山を守っていきたいなど様々な想いが強くなりましたが、役場で仕事を続けている限りその暮らしは叶わないと思いました。そこから別の仕事をしながら暮らしを作りたいと考えるようになり、役場を辞めるという選択をしました。

|林業は先人に感謝する仕事。だけど感謝するだけでは生きていけない。
ー役場を辞めた後、薪ストーブを売っていこう、という発想もなかなか出てこないと思いますが、どのような経緯だったのでしょうか。

 最初は林業をやっていこうと思ったのですが、現在の林業は補助金ありきの世界なので、それがもらえなくなった時に生きていけないと思いました。次にしたいことを考えた時、切った木を薪にして売りたいと思ったのですが、そこに需要がないと売れないじゃないですか。
だから、自分自身も一家に一台あってほしいと思うし、薪の需要につながる薪ストーブを売ることにしました。
薪を作ることは、里山を整備することにもつながるので、地元のためにもなるなと。

ー需要がないから需要を作り出す、ということは言葉では簡単でもなかなか難しいことのように思えます。
 木は、何十年もかけて商品となるものです。自分よりも上の、じいちゃん達が育ててくれたから、今自分たちはこの木を切ることができている。だから、林業という仕事は、木を育ててくれた「先人」に感謝しながらお金を稼ぐという、ロマンのある職業です。
 今の時代、感謝して木を切るだけでは、厳しい状況にあります。ただ、木は加工することで、その価値が大きく変わります。
木を守り里山を次の世代につないでいきながら、僕たちが豊かに暮らしていくためには、木を使った新しい仕事の仕方を模索していくことも必要だと思います。需要を作り出すことは難しいことかもしれませんが、「bluebearの薪ストーブ屋さん」を通して、豊かな暮らしをしながら里山を守っていきたいです。

 取材前、家にあったらおしゃれな暖房家具、くらいにしか捉えていませんでしたが、村上さんのお話を聞くことで、自分の価値観が大きく変わりました。料理も楽しめるだけでなく、災害や教育の上でも活躍する。そしてその燃料である薪を使用することは、日本の里山を守ることにもつながる。その利点の多さから「なんで今家で灯油ストーブを使って生活しているのだろう」と振り返るきっかけとなりました。
 曰く、多くの人が「憧れ」のまま終わってしまう理由の一つには「薪が自分で用意できない」ということがあるそうです。そんな方のために、薪の販売も併せて行っているという村上さん。
木造のご自宅もとても素敵なので、ぜひ一度「bluebearの薪ストーブ屋さん」へ足をお運びください!

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