ツワノシゴト模様 島根県津和野町発信、生き方を探すローカルメディア

津和野からつわものを。津和野町日原で放課後行われている「つわの育ちつわもの隊」とは!?

こんにちは!ライターの舟山です。

 

様々な教育事業・取り組みが行われ、連日視察や研修で訪れる人も多い津和野町。小学校単位でも素敵な取り組みが行われている中、今回は津和野町の日原小学校にて行われている放課後子供教室「つわの育ちつわもの隊」にフォーカスを当て迫ります。

つわもの隊の一部の子は、夏に行われた「つわの子供キャンプ」にも参加してくれていました。普段はどんな活動をしているのか、どんな想いから活動が始まっているのか、その想いについて津和野町役場教育委員会の担当の方に話を伺ってきましたので、インタビューとレポート併せてお伝えいたします!

 

|家庭環境だけに依存しない教育環境を

「つわの育ちつわもの隊」は、文部科学省が推進する「放課後子供教室(※1)」の一環として津和野町立日原小学校で行われている取り組み。今回お話を伺った教育委員会の方が、企画立案から実働(つわもの隊の先生)までを担当されています。

通常は月曜日と木曜日の放課後に活動し、月に1~2回、土日などの休日に町内外で、自然体験活動(間伐体験、木こり体験、木工教室、火おこし体験、川遊び、原木しいたけ作り、猟師体験)や地域行事(夏祭りの駄菓子屋さん開店、秋祭りでの子ども神輿)への参加の他に、様々な体験活動(料理教室、工作教室、電波教室、科学教室)などの特別な活動を行っています。

平日放課後の活動では、小学校の近くにある「賑わい創出拠点施設(仮)」という古民家を改修した建物の一室で行われています。基礎学力や自主学習の習慣を身につけるために、音読やプリント学習・文章力向上のテキストなど先生が用意してくれたものを30分ほどの時間で行い、それを終えた後そのまま学校から出た宿題に取り組みます。

驚いたのは、取り組んでいる音読の中身です。音読と聞いて勝手に「小学校の教科書でも読むのかな」とイメージしていましたが、いざプリントを見せてもらうと、昔の有名な短歌や論語といった大人でも読み慣れない漢字や難しい言葉がゴロゴロとあり、一目見ただけでは意味まではすぐに読み解けない文章が多くありました。

ー結構難しい漢字がありますね。

そうです。漢字に慣れてもらう・親しんでもらうようにしています。昔の美しい日本語を知ってもらうことで言葉のバリエーションを増やし、書く力や表現力を養いたいと考えています。

以前、大学の付属の小中学校の授業研究に参加した際に、そこの大学の教授の方もおっしゃっていたのですが「論理的に話せる生徒は多くない。できる生徒がどういう生徒かというと、親が経営者や弁護士だったり、もともと論理的な話し方のできる大人が近くにいる生徒がほとんど。つまり、家庭環境に依存する部分が大きい」とのことでした。しかし、それを「だから仕方がない」と受け入れてしまうと、教育格差は埋まりません。「それなら、そういう環境を社会教育として作れないだろうか」と思ったのですが、そう簡単にはいきません。どうにかして家庭環境だけに依存しない教育環境を作りたくて、この放課後子ども教室をたちあげました。

 

|最初はいわゆる普通の子

実際に小学生が使っている論理的に書く力を養うためのテキストを見せてもらうと、最初は模写から始まるような、丁寧な作りになっており、小学生も難なく取り組めているようでした。

また短歌の内容も意味の分からないまま読むのではなく、辞書で調べ理解した上で音読をしていました。先生から「これどういう意味だっけー?」と聞かれスラスラ答えている子たちの様子を見て、素直に驚きました。聞かれ分からない時には、自分たちで辞書を引いて調べ直す、という癖もついており、学び方が身についているなぁと感じました。

ーもともと学ぶ意欲の高い子が多く参加されているのでしょうか。

つわの育ちつわもの隊に参加している子は、最初から賢いわけでも特別なわけでもなく、所謂「普通の子」です。なので、どの子も必ず活動の中で、プリントのレベルが上がった時などに、「自分が思ったようにできない」というにギャップに直面します。初めて挑戦することがうまくできないことは当然です。そのときに逃げ出さず、あきらめず、続けること、努力することで、「できないことができるようになる」という達成感を得ることができます。この達成感は習い事のスポーツなどではよく言われることだろうと思うのですが、勉強でもそれを味合わせてあげたいと考えています。この教室では、勉強でも体験活動でも、できるようになる手助けをしてあげることで学ぶ楽しさを知ってもらい、自ら学ぶ姿勢を育てることを目指しています。

 

ーできるようになる手助けをこころがけているのはなぜでしょうか。

私が高校生のころ、小学校2年生の男の子に勉強を教える機会がありました。その子は勉強が苦手で、簡単な足し算でも間違えていました。2年生といえば学校ではかけ算を学んでいる時期です。それなのにかけ算どころか、足し算もままなりません。あの手この手で「何を理解していないのか」を探っていると、数字の「10」を概念として理解していないことがわかりました。これはとても衝撃的でした。

 

ーたしかに衝撃ですね。

そこで、お金が一番身近で分かりやすいかと思って1円玉などを使って教えますが、やはりなかなか理解してもらえません。お金は日常生活の中で使うだろうのに、どうしてだろう、と不思議に思いました。その時、彼は流行りのカードゲーム用のカードをたくさん持っていました。当然カードはお店で買うはずなので、どうしているのか聞いてみると「カードはお母さんの買い物かごに入れるだけ」という答えが返ってきました。それを聞いたとき、仕事が終わり、疲れているけど夕飯のために子どもをつれて買い物に行くお母さんの姿が目に浮かびました。毎日仕事や家事に追われながら子どもの勉強にまで手が回らないのは無理もないなと思えましたが、同時にこの子のこれからの勉強での苦労を考えると悲しかったです。だから、学校以外の教育を親だけが担うのではなくて、もっとたくさんの大人で支えられたらいいのにと思いました。そんな出来事もあり、普段の生活の中で、親以外の大人が少しでも「考える機会を増やす」「何かができるようになる」手助けができる環境があるべきだと思うようになりました。

 

ー学校や家庭だけではカバーしきれない部分を教えられるような場所になっていきたいということですね。つわの育ちつわもの隊の設立の経緯を教えてください。

本来、子供に勉強の癖をつけたり決められた時間内で宿題をやり切る、というような習慣は家庭で培われます。でも、親になったからといって突然先生みたいにはなれるわけではないし、教え方を教わったわけではない。もともと勉強が苦手な親御さんだっているはずです。都市部であれば、塾に通わせるなど選択肢も多くありますが、こういった地方の田舎では習い事の選択肢も少なく、経済的にもそう簡単にはいかないのが実情です。だからそれは公教育でサポートできるべきだと思い、教育委員会にそのような提案書を提出し、活動を始めました。

|子ども達が「学ぶ楽しさ」を感じ始める

ー活動をし始めて、どんなことが見えてきましたか?

社会が求めている人材に必要な能力は年々高度になっていると思っています。ただお勉強ができるだけでも、まじめに言われたことをするだけでも通用せず、文系と理系のハイブリット型や、イノベーションを起こせる人材が求められ、「ロボットにはできない仕事」ができなければいけないと言われていますよね。しかし、教育環境には地域差があり、また相変わらず家庭に依存している部分も大きいです。これができれば大丈夫という基準が曖昧で、多様な社会であるがゆえに子どもの能力を1つのものさしでは測りにくく、何をどうがんばればいいのか子どもも親も判断がつかないところがあるように思います。それは子どもたちががむしゃらにがんばる必要性を感じられなくなるということだとも言えるのではないでしょうか。一生懸命がんばる機会が減るということは、あまり負荷をかけられることがないということでもあります。私はそのせいで、子どもたちの「耐える力」が弱くなっているように感じています。

教室をたち上げた初年度30人くらいの参加者がいました。全員に計算のプリントを時間を計って解いてもらいました。計算のスピードが必要なプリントです。その時、自分が思うように解けない、タイムが遅いということを泣いて悔しがった子が数人いました。その様子を見て私は「お、こんなに悔しがるくらいだから、ここから奮起してがんばっていくんじゃないか」と期待したのですが、その子たちは翌日から来なくなってしまいました。

子どもにはみんな「できる自分でいたい」という気持ちがあると思います。それは現代も昔も変わっていないはずです。そのできる自分という理想の姿とは違う「できない自分」と出会った時に、今の子は耐えられない子が多いのかもしれないなと感じたのです。無理して嫌なことをする必要がないから、です。

生活が便利で豊かになり、アナログの苦労は減った今、自ら積極的に苦労を求めることは難しいですよね。しかし社会人になったときの苦労はというと、昔よりも複雑で多くなっているのではないかと思えます。厳しい社会でも活躍できるように育てたいのであれば、子どもの時にたくさんの体験をさせること、そして「耐える力」をいかにつけるかが大事なのではないかと考えています。また小学生の頃の学習は基礎の基礎です。基礎がしっかり身について、初めて応用がきくようになり、発展的な考えができるようになるものだと思っています。

継続して続けている子は、活動の中でいろんな体験をし、耐える力がつき学習意欲もついてきています。学ぶ楽しさを感じている子どもたちを見ると、嬉しくなります。もっといろんな体験をさせて意欲を刺激してあげたいとより強く思うようになりました。

|町のかっこいい大人との接点を。

ーこれからの活動で達成したいことなどありますでしょうか

子どもは地域で育てるという感覚を広めたいなと思っています。

私は子どもは、親や学校だけではなく地域全体で育てていくべきだと考えています。子どもは町の人材(人財)だからです。これからの社会では、「課題解決能力」「論理的思考力」「コミュニケーション能力」などを持った人材が求められていますが、そういう人材が育つには、子どものころからそういったスキルを持っている大人を見てきたかどうか、にかかってくると思います。子どもは真似をして育つものだからです。「目の前の課題を解決するためにはどうすればいいのか」を試行錯誤しながら取り組んでいる大人の姿を見ながら育った子どもは将来明るいのではないかと思います。地域の大人が「地域の子どもは地域で育てる」という意識を持ち、目の前の課題解決に全力で取り組む姿を見せながら、子どもたちもそれを見て自然に学んでいくような教育環境を作ることができれば理想です。

現状、学習塾とボーイスカウトをくっつけたような活動なわけですが、今後町のかっこいい大人と接点を増やしながら、町の課題について一緒に考えられる機会を作れるような活動になれば、津和野町は素晴らしい教育環境になると思っています。

大事なのは継続なのですが、この活動は今は私一人の想いだけで動いているといっていいような活動です。教育委員会も人員に余裕があるとは言えない状況なので、このままでは続いていかないと思っています。津和野町の方針が変わるのか、民間の団体になるのか、いずれにせよしっかりとした基盤が必要になるだろうと思っています。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「子どもは、親だけが育てるのではなく、また学校だけが教育するのではなく、町全体で、町の人材(人財)として育てていく存在」とおっしゃっているのがとても印象的でした。それが単純な社会的な背景だけを鑑みての考えではなく、担当の方がされてきた様々な経験や活動を通じて見てきたものが今の想いにつながっていると感じました。

つわのの、強くたくましい子どもを育てたいという思いから名付けられた、「つわの育ちつわもの隊」。どのような学力をつけていくか、どのようにつけていくか、という学力的な視点だけでなく、よりよい人材として育っていくために、町の大人と関わりについても視野を広げられていて、ますます今後の活動が楽しみになりました。

町の課題について、僕たちだけで考えていくのではなく、町に住む子どもたちが自分ごととして捉えられるような環境作りを、僕たちも考えていく必要があるなと感じました。

 

※1 地域の多様な方々の参画を得て、子供たちとともに行う学習やスポーツ・文化活動等の取組

島根県津和野町発信、生き方を探すローカルメディア

Copyright© ツワノシゴト模様 , 2018 All Rights Reserved.