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現代を生きる哲学研究者と「日本哲学の父」西周との出逢い

初出の媒体:ファンモン2号

初出年月日:2017年10月

石井雅巳(いしい まさみ)さんは、2016年から津和野町で活動する地域おこし協力隊だ。町営英語塾HAN-KOHスタッフを経て、現在は津和野町郷土館に勤務し、西周(にし あまね)事業に取り組む彼に話を聞いた。

 

 

博士課程に進めなかった哲学研究者

私が本をよく読むようになったのは高校時代で、「哲学」という分野に本格的にのめり込んでいったのは大学生時代の頃。過去の文献であるにも関わらず、現代にも刺さる鋭い議論を展開する哲学者たちに魅了されていきました。大学院時代の専攻は仏独現代哲学です。そのまま博士課程に進むつもりでいたのですが、現在の日本は研究者として生きていくには厳しい環境で、教員になることへの自信や魅力も失いつつありました。冷静に自分の将来を見直したいと考えていた矢先、ファウンディングベースから津和野町の地域おこし協力隊を募集しているという話を聞いたんです。

 

 

津和野へ来て知った、西周の言語への思慮深さ

津和野は幕藩時代には教育機関である藩校もあったおかげで、学問分野で優れた人物が多数輩出されています。「日本哲学の父」と呼ばれる西周もその一人です。もちろん西の存在は知っていましたが、津和野町出身であることとは、恥ずかしながら知らなかった。この地に住み、彼の残した文献を読んでいくなかで、そのおもしろさに魅了されていきました。

 

 

まず経歴が、「徳川慶喜の側近を務めた幕臣」であり、「日本初の憲法案の提出者」であり、「獨逸学協会学校(現在の獨協中・高校)の初代校長を務めた教育者」でもありと、まさに百面相的な人物です。

西は「哲学」という訳語をつくったことでも知られています。辞書の無い時代に外国語をマスターし、辞書に載るような新しい日本語を発明した。「言葉をつくる」ということは、互いの言語について相当な理解がなければ不可能です。経歴ももちろんですが、私は特に西の言語への思慮深さに驚かされたのです。

 

知のインフラを整える——西周の残した業績を資源として活かすために

私たちが常日頃関わっている日本語。そんな日本語の近代化へ大きな影響を及ぼした西のことを、日本人はあまりにも知らな過ぎるのでは無いでしょうか。

どの町にも資源というものは豊富にあると思いますが、その資源を活かすかどうかはその町次第だと思います。今私が取り組んでいるのは、新しい『西周全集』を出版する事業です。西が残した膨大な資料をこの町の資源として活用できるように編纂し直すのは、まさに「知のインフラを整える」と言っても過言ではありません。

さらに「哲学」という分野は、観光資源としても役立てるのではと実感しています。津和野町東京事務所(T-Space)で過去2回開催した講演イベントは毎回満員で、各20名の参加がありました。思想や歴史に興味がある方というのは一定数いて、こうした層は新しい、ちょっと突っ込んだ話を求めている。そんな方達に西の話をすると、響くんですよね。

私はこうした潜在的な西周読者に対して、西の魅力を伝えていきたいと思っています。西を専門とする現役の研究者は、全国でも10数名ほどです。同郷の森鴎外を研究する者は400名以上と、その差は歴然たるものがあります。西研究はまだまだ未知の領域も多く、それだけにやりがいもあります。新全集出版の他にも、西の遺した重要な論考を現代語訳し、書籍として刊行するプロジェクトも現在動き始めています。

西は私たちに「言葉」という大切な贈り物を残してくれました。そんな西の業績を専門家とともにまとめ、今後彼が残してくれた資源を教育や観光、町づくりに活かしていけるような環境を作っていけたらと思います。

 

 

石井雅巳

 

1990年、神奈川県横浜市生まれ。2016年慶應義塾大学大学院哲学・倫理学専攻修士課程修了。2016年4月より津和野町役場町長付 西周事業担当。NPO法人bootopia 副代表理事。『西周新全集』や現代語訳プロジェクトの旗揚げや監修にもかかわる。

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