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〈研究者〉と〈起業家〉の2足のわらじを履く男ーー‘‘地道”で‘‘ミクロ”な《空き家再生》への挑戦。

 

全国に約800万戸以上あると言われる日本の空き家。

年々深刻化している空き家の問題は、全人口約7,600人の町・津和野においても例外ではない。かつて小京都として一世を風靡したこの地も、今では空き家の数が500軒以上。町を歩くと人気のない空き家が目についてくる。

そんな中、津和野における空き家問題を解決するべく、ある一人の男が立ち上がった。

 

畔柳 知宏(くろやなぎ・ともひろ)さん。

東京工業大学建築学系の博士後期課程に所属している現役の大学院生だ。彼は院生として歴史的な町並みを調査・研究する’’研究者”としての顔をもつ一方で、空き家の掃除・点検・活用などの事業を行う会社『ジミクロ』をこの春に立ち上げた’’起業家”でもある。そして、現在も津和野を始めとする地方自治体で取り組まれている‘‘大学生が「町長付」で町の活性化に関わるプログラム”『Founding Base事業(畔柳さんがいた当時は Innovation For Japan事業)』の第1期生だ。その当時から津和野の町並み保全や空き家問題に関わっていた彼は、およそ5年の時を経た今、新たなチャレンジの真っ只中にいる。

 

 

 

 

 

‘‘地道”に‘‘ミクロ”なことから頑張ればいい

 

 

 

2017年4月、空き家再生を目指す企業『ジミクロ』を津和野で立ち上げた畔柳さん。そのコンセプトは‘‘地道に、ミクロに町並みを次世代に引き継いでいくためのサービスを提供する”というもの。

 

畔柳さん「『ジミクロ』という社名は、 Innovation For Japan(以下:IFJ)時代の上司が名付けてくれたんです。『ジミクロ』の『クロ』は私の名字から取ってきたんですけど、『ジミ』はその上司に『くろちゃん(畔柳さんのニックネーム)の活動って、なんか‘‘地味”だよね』と言われたから(笑)。まあ、確かに地味かもしれないけど、その活動は自分だからこそできることだし、地味だったら地味でいい、と。‘‘地味”=『ジミ』ならとことん地道に、‘‘自分ができる小さなこと”=『ミクロ』なことから頑張ればいいと思って、‘‘地道に、ミクロに町並みを次世代に引き継いでいくためのサービスを提供するという言葉を会社のコンセプトにしました」

 

幼い頃から、建物や建築関係のことには高い関心を持っていた畔柳さん。大学で本格的に建築を学んで芽生えたある問題意識から、IFJ事業の1期生として、それまで縁も所縁もなかった津和野に来ることとなった。

 

畔柳さん「建築を勉強していく中で感じたのが、‘‘どんな建物でも30年かそこら経ってしまうと、ほとんどは壊されてしまう”ということ。そこで『家が住み継がれるためには必要なことは何なんだろう?』と考えた時、『その答えは、単純に‘‘家”だけにあるのではなく、都市計画や法律、環境といった家を取り巻く‘‘状況”にもあるのではないか』と思ったんです。それからはこうした‘‘状況”の一つとして、都市計画を中心に勉強していました。

そんな折にIFJ事業の話を聞いて、歴史的な町並みが保全されている津和野への興味が強く湧いてきました。それから、都市計画を始めとする自分が学んできたことと実際の現場との違いを‘‘この目で確かめたい”と思い、IFJ事業の第1期生として津和野に来ることを決意したんです」

 

畔柳さんはIFJ時代、観光マップ作りや路地を利用した観光イベントを開催。1期生として滞在したのは1年間であったが、自身の任期を終えた後も、現在まで積極的に津和野に関わり続けている。その原点には、津和野で活動する中で芽生えたある思いがあった。

 

 

「このイベントをやった結果、何を得ることができたのか」

 

IFJ時代、畔柳さんが実施したのは、目立たないけれども、美しい町並みと景色が楽しめるスポットを活用して、地元の和菓子販売や地酒を振舞う観光向けのイベント。長い試行錯誤を経て開催した自身の思い入れが強いイベントであったが、それが終わった後に、畔柳さんはある問いに向き合うこととなる。

 

畔柳さん「私が企画したラウンジイベントは、『今まで、見つけられてこなかった美しい町並みが感じられる路地も魅力的な津和野の観光資源の一つとして提案することで、魅力的に整備されるようになってもらいたい』という思いから発案しました。イベント自体は中々盛り上がったのですが、終わった後に『このイベントをやった結果、いったい何を得られたんだろう』という思いが芽生えてきたんです。確かに、町民の方からは、今まで気づかなかったけど、改めていい場所だと思ったと言ってもらえた。一方、自分が思い描いていた実際の町並みの整備にはつながっていないんじゃないかと、自分の中に消化不良的なモヤモヤした感覚がありました」

 

 

そのイベントが終わった時点での自身の任期は、すでに半年足らず。残されたわずかな時間の中で畔柳さんが切り込んだのは、空き家の情報掲載に関する活動であった。

 

畔柳さん「このイベントが終わってから、もうちょっと家を整備するための仕組みに携わろうと、左鐙(さぶみ)地区にある空き家の情報掲載に関わり、地域の魅力が十分に伝わるような文章・写真に編集していきました。私が関わってから移住を決めた事例が出てきたこともあり、他の地区でもその活動を続けていきたいと思う一方、任期が終了するタイミングは刻一刻と迫ってきていました。

左鐙以外の地区にも関わりたかったにもかかわらず、離れざるえない状況は本当に悔しかった。だから、『津和野を離れることにはなりますが、何かあったら呼んでください』と、色んな地区に声かけをしていったんです。

その連絡があったのは、津和野を離れてから半年ほど経った時でした。津和野の方から、移住者向け住宅を建てるためのワークショップを手伝いに来て欲しいとのお話をいただき、再び津和野に関わらせてもらうことになったんです。その後も度々津和野に呼んでいただいたり、津和野を研究対象として論文を書いたりと、ありがたいことに現在までずっと津和野に関わらせてもらっています」

だったら‘‘自分”でやってみたらいいんじゃないか

 

自身の任期終了後も、研究に仕事にと津和野に関わってきた畔柳さん。そんな中『ジミクロ』設立に至ったのは、近年感じた津和野での盛り上がりと空き家問題に対する自身の意識の変化からであった。

 

畔柳さん「『ジミクロ』設立に至った理由はいくつかあります。

一つは、IFJ時代よりも津和野が盛り上がってきていることを肌で感じたから。津和野に住む友達や知り合いたちが精力的に活動をしている姿を間近で見ていましたし、近年は移住した方が立ち上げる活動が目立ち始めていました。そんな様子を見て、改めて自分も『この津和野という町にきちんと向き合いたい』と思ったんです。

また、解体前の空き家の惨状は津和野に住んでいた時に実際に見て知っていましたし、『ジミクロ』のメイン事業である掃除・点検は、空き家が継続して活用されていくために『やった方がいいんだろうな』という思いはずっとあったんです。ただ、私自身はあくまでも地域の方のサポート役だと思っていて、町の人に何か感じてもらえるようなイベントや空き家バンクのフォーマットを作ったので、後は‘‘誰かが”受け継いでくれたらいいくらいのつもりでいたんです。けれども、実際にそうはなりませんでした。そして、そこで思ったんです。『だったら‘‘自分”でそれをやってみたらいいんじゃないか』と」

こうして2017年4月、畔柳さんは津和野で『ジミクロ』を創業した。

 

 

 

 

 

目指すは‘‘空き家のことなら何でも自分に聞いてくれる”状態

 

東京の大学院に通っている畔柳さんが、わざわざ時間をかけてまで津和野に関わり続けるのは、これまで培ってきた津和野での経験や人間関係があること、また、自身の活動において研究と実践のバランスがあることが大きいと語る。

 

畔柳さん「IFJ 時代にお世話になった津和野に、今でも関わらせてもらえていることはすごくありがたいです。他の地域でも研究や活動をしていたこともあったのですが、一番深く関わってきた津和野はやはり特別です。

また、大学院生の活動としての研究と起業家の活動としての実践の両方ができることはとても大きい。研究の場合、確かに理想はたくさん描けます。けれども、果たしてそれを現実に実践できるのかどうかや、関わる人の気持ちまではわからない。‘‘マクロ”な視点から研究で自分なりの理想を描くことと、‘‘ミクロ”な視点から『空き家が残されている理由』や『家を建てる大工さんの考え』を知ること、どちらも同じくらい大切だと考えています。その両方が活動する中で結びついていくからこそ、いいモノを生み出すことに繋がると考えています」

 

『ジミクロ』は空き家や空き地に関連する事業をメインに行っていく。研究者と起業家という2足のわらじを履いて活動していく畔柳さんの目指すところは、津和野における空き家のスペシャリストだ。

畔柳さん「津和野町は人口減少が進んでいる一方で、移住者も少しずつ増えてきており、家を住み続けていけるような状態で保つことは、これからますます必要となってきます。また、町外に住んでいるものの、津和野にある空き家やお墓の状態が気になるという方の声もときどき聞きます。『ジミクロ』はそういった町としてのあるべき姿と、現実に困っている人の声に応える活動をしていきたいと思います。

まず津和野町全域を対象に、空き家の掃除、点検に加えて、空き家であるか否かに関わらない空き部屋の掃除、空き家周りや空き地の草刈り、お墓掃除といった業務を行っていきます。また、もうすぐ津和野町のふるさと納税のプランの一つにこの空き家点検サービスが『ジミクロ』のサービスが掲載される予定なので、多くの人に利用してもらいたいです。

そしてこれからの『ジミクロ』の活動を通して、誰しもが‘‘津和野の空き家のことなら何でも自分に聞いてくれる”ような人物になることを目指していきたいと思います」

 

畔柳さんの挑戦はまだ始まったばかり。これからも、‘‘地道”に‘‘ミクロ”に自分のできることから津和野の町を変えていく。

 

 

(文/前田健吾、写真/宮武優太郎)

 

 

代表者:畔柳 知宏

電話番号:050-3692-2396

メール:jimikuro96@gmail.com

ウェブサイト:jmkr2396.tumblr.com

事業所:島根県鹿足郡津和野町後田ロ60-43

設立:2017年4月

主な事業内容

 1.空き家点検・掃除サービス

 2.空き家活用コンサルティング

 

畔柳 知宏

2012.4 津和野町営業課 町長付(地域おこし協力隊)

2015.3 東京工業大学 人間環境システム専攻修士課程修了

2015.4 建築設計事務所 勤務

2016.4 東京工業大学 環境・社会理工学院建築学系 博士課程在籍

2017.4 ジミクロ創業

 

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