SL『やまぐち』号の姿に魅せられてーー数十年、横浜から津和野に通い続けるあるカメラマンの哲学に迫る
2017年7月22日、待ちにまったSL『やまぐち』号の運行が始まる。
SLが津和野を走る週末。
汽笛の音とともにシャッターを切ったり、その姿をキャンバスに描いたりする人、汽笛の音に誘われて手を大きく振る人。その煙を追いかけるように、たくさんの人で町は溢れている。
しかし、ここ最近の津和野。
毎週末、JR山口線を走っていたSLの姿が見られず、町の雰囲気は少し寂しげ。その存在感の大きさや、それだけ多くの人を惹きつけるコンテンツであるということが改めて実感される。
ところで先日、SL『やまぐち』号の写真を撮り続けているカメラマンの田村さんという方を紹介してもらった。
田村さんがすごいのは、その写真のクォリティもさることながら、およそ1000km離れた横浜から津和野に数十年通い続けているというSLに懸ける情熱である。それも、60万円はくだらないカメラを3台と、望遠・広角レンズなど、良いSL写真を撮るためには惜しみのない機材をたくさん積みこんでだ。
横浜から津和野までの往復にはおよそ4万円を費やすことになり、片道の移動だけで7時間以上はかかる。
それほどの時間・経済・動的コストをかけてでも撮りたいSL写真。
田村さんが思うSLの魅力とは一体どのようなものなのだろうか。
一番は、同じ煙が一つとして無いこと。良い煙が出る時の気象条件として挙げられるのは、低い温度・高い湿度・無風の3つが挙げられるんだけど、それらが全部揃っている日は中々ない。SLを運転する機関士・
機関助士さんの技量によっても煙の質は変わってくるからね。だからこそ、過去に撮ったのと同じ写真なんていうのは二度と撮れないんだよ。
仕事にしてもスポーツにしてもどんな世界においてもそうだが、上手くいかないことばかりだからこそ、寸分の狂いもないその瞬間(とき)を求めてしまう。
しかも、田村さんのSL写真は俯瞰から撮られたものばかり。
当初は線路沿いを中心に撮っていたそうだが、今では多くの写真が俯瞰から撮られている。
俯瞰の方がこだわるポイントが多いから面白いんだよ。
SL写真は「俯瞰に始まり俯瞰に終わる」という格言があるくらいだからね。とは言っても、そのようにして撮った写真は失敗ばかり。1日中いても、全く良い写真が撮れないこともあるからね。それはもう、納得ができてプリントアウトする写真の100倍以上はシャッターは切ってきた。
だからこそ、良い写真が撮れた時というのは、思わず頭の中が真っ白になる。その瞬間はもうね、本当に身震いしてしまうもんなんだよ
多くの機材を積んで横浜から津和野を訪れ、気象条件などに左右されながらも何とか良い写真を撮る。俯瞰からシャッターを切るその姿勢こそ正に、男の浪漫なのだ。
日差しも差してきたこの季節。
俯瞰から機材をぎっしり……とは言わず、まずはカメラを片手に週末の津和野を訪れてみてはいかがだろうか。
(文/前田健吾)
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