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【里芋×マイスター】「元々は、里芋にそれほど興味がなかった」’’里芋”農家・永田寿秋さん。笹山での農業における《‘‘1つ”の信念》とは

 

青野山の中腹に位置する集落・笹山地区。

この地区一筋で生きてきた農家・永田寿秋(ながた・ひさあき)さんは、特産である里芋を中心に、里芋の加工品や山菜、ほうれん草などの栽培を行っている。

今回のインタビューでは、’’笹山の里芋”のブランディング戦略や自身の哲学、ずっと過ごしてきた笹山という地域への思いについて迫っていく。

 

 

 

 

 『この地域にあったモノを作る』

 

 

津和野のメインロードを出て国道9号線を横切り、ひたすら獣道を進んでいく。

しばらくするとパッと開けてくる豊かな田園風景、ここが笹山と呼ばれる地域である。高い標高に位置しているこの地域、夏は他の地域に比べて冷涼であるが、冬は「これでもか」というほどの雪が積もるのだという。そんな田園風景を横目にずっと進んだ奥深く、柿木村(現・吉賀町)に繋がる旧道の麓にある青い小屋が永田さんの家の目印である。

 

「自分の家の場所を伝えてもみんなわからんけぇ、目印になるようにと数年前に作業小屋を青く塗り替えたんよ。まあ、少し趣味の悪い色じゃけども(笑)。」

 

 

そう言って茶目っ気たっぷりに笑う永田さんは、生まれも育ちもここ笹山。高校卒業後に農業研修のために2年ほど町を離れたことはあるものの、人生の大半をここ笹山の地で過ごしてきた。

そんな笹山、現在は住民が70人ほどしかおらず、その多くが高齢者と呼ばれる層に当たる。

 

「今では笹山に農業の担い手はほとんどいない。毎年のように農業研修生を受け入れてはいるが、その後に笹山に住み着く者はあんまりおらんのよね。まあ移住者でこれほどの山奥に住み着く人なんていうと、中々の変わり者なんだろうけど(笑)。ただ、今後笹山が集落として衰退していったとしても、この土地が荒れることなく、農作地として活用し続けてもらいたいね」

 

山奥深くにある豊かな田園風景が印象的な笹山。まるで映画のワンシーンのようなその眺めが失くなってしまったら…と考えると、何か胸に込み上げてくるものがある。

 

ここ笹山が地域で一体となって押し出しているのが、黒ボク土と呼ばれる青野山の火山灰を利用して育まれる里芋だ。

 

「約50年前から栽培が始まった笹山の里芋は、その粘り強さと箸がスッと通るようなキメの細かさが特徴的。冷涼な気候の中でゆっくりと育っていくから、普通の里芋よりもキメが細かいんよ。島根県の他地域では益田のメロンや平田のブロッコリーなどが有名だけど、笹山というこれほど矮小な地域で一つの作物のブランディングを推し進めている事例は他にはないんじゃないかな」

 

 

永田さんが何度も‘‘キメが細かい”と形容された笹山の里芋。

地域の気候・風土があってこそ生まれるスペシャルな里芋は、文字通り‘‘笹山ブランド”の商品だ。永田さんはそんな里芋に加えて、山菜や加工ワサビ・ほうれん草なども出荷しているという。

 

「里芋など地域で栽培されている作物のほとんどは、先輩方から受け継いできた物。ただ、この地域で栽培する作物に関して一つ信念があるとすれば、笹山の気候や風土という資源を最大限に生かした『この地域に合ったモノを作る』ということなんだよ」

 

笹山のこの風景だけはずっと残ってもらいたい

 

『この地域に合ったモノを作る』という確固たる哲学を持つ永田さん。中でも特産である里芋には強いこだわりを持っている

 

「今でこそ同等の値段になってきているが、かつて笹山の里芋の値段というと、津和野の他の地域のそれよりも幾分は高かった。今でも、ブランドとして出荷するために、里芋の選別はきちんとやっているよ。ただ、選別で振るい落とされた里芋が使われないってのはもったい無い話じゃん。だから、そういった里芋はラーメンやお饅頭(まんじゅう)などの加工品として、収穫祭など地域のイベントで販売しとる。

里芋でラーメンを作った理由?俺がラーメン好きだからだよ(笑)」

 

加工品にも使われている笹山の里芋。ちなみに、津和野の道の駅にも出荷されている里芋ラーメンは、かなり好評の商品なのだとか。

笹山という地域全体で長く栽培されてきた里芋だが、永田さん自身、元々その栽培にはそれほど積極的ではなかったのだと言う。

 

「本気で里芋栽培に取り組んでいるのは、ここ15年ほどのこと。親はずっと作っていたんだけど、自分で里芋を作ることにあんまり興味がなかったんよね。そうは言っても、里芋の需要があるのに栽培の担い手がいないことを心配はしていたし、歳を重ねてきたら地域への愛着って湧いてくるじゃん。そういったことがあって、自分で栽培することにしたんよ。

ただ「笹山の里芋ってすごい物なんだ」という思いはずっとあった。キッカケは、NHKの『明るい農村』という番組で笹山の里芋が取り上げられたこと。当たり前のように目にしていた里芋が、この地域でしかできない貴重な物だということを知ったからね」

 

 

本気で栽培に取り組んでおらずとも、地元産里芋へのプライドだけはずっと持っていた永田さん。元々はほうれん草などをメインに栽培していたそうなのだが、そこにおいても自身の哲学である『この地域に合った物を作る』という考えが生かされていた。

 

「ほうれん草は、笹山では自分が初めて栽培したね。夏でも比較的冷涼な気候な地域だし、ビニルハウスで栽培することができるもんで、夏場の競合がいない時に市場へ出荷できるんよ」

 

ほうれん草だけでなく、笹山で初めてビニルハウスを導入したのも永田さんである。しかし、ビニルハウスでの栽培、当初は周りの農家さんから否定的な目で見られていた。

 

「笹山は豪雪地帯じゃけぇ、ビニルハウスが潰れてしまうんじゃないかという先入観をもった農家さんが多かったね。現に冬場に潰れてしまうことはあったけど(笑)。ただ、夏場に自分で温度・水分を調節できるのはすごいメリットだし、上手く利用すれば収益を上げられるという確信はあった。そうやって自分がビニルハウスで作物を栽培して市場に出荷していたら、次第に周りの農家さんも理解を示してくれるようになったね」

 

里芋のブランディングやほうれん草の栽培、ビニルハウスの導入など笹山で数々の革新的な取り組みを行ってきた永田さん。今後に向けて、どのような取り組みを行っていくのだろうか。

 

「これからは、新しく何かするということではなくて、今笹山で生産される作物の品質にバラつきを作らず、安定して良い物を作っていくということに注力していく。そうすることが、笹山が農地として活用されていくことに繋がるんじゃないかな。その過程で、積み重ねてきた自分の技術を誰かが受け継いでくれたら嬉しいね。

それと、お世辞かもしれないんだけど、外から笹山に足を運ぶ人が「ここの景色って、めちゃくちゃ良いですね」と言って褒めてくれる。

どんな形であれ、この風景だけはずっと残ってもらいたい

 

 

 

笹山の魅力が存分に詰まった芋煮会

 

愛媛・山形のそれと並んで、日本三大芋煮に数えられている津和野の芋煮。

 

笹山産の里芋が使用されている津和野の芋煮を味わえるイベントが、【10月の第4日曜日】に、笹山の旧小学校跡に当たる《笹山地区コミュニティーセンター》にて開催される。

 

およそ5年前に始まったこのイベントでは、芋煮に加えて、里芋の炊き込みご飯やおにぎり・ラーメンなどに加えて、呑んべえには嬉しい生ビールや焼き鳥を屋台で購入することができる。また、全品100円の地元野菜が振舞われる青空市も開催される予定だ。そして、食べ物だけではなく、来場者にゆっくりと過ごしてもらえるようにと津和野の子供神楽のステージも用意されている。

 

笹山の一大イベントであるこの芋煮会、昨年は町外の人も含めて、約300人もの来場者が訪れたのだという。

 

ほんのりと柚子が香り、炙った小鯛から取られた出し汁でコトコト煮込まれた、しっとり滑らかな食感の里芋を食す秋の日。

そのバックにあるのは、どこか懐かしさを感じさせる、一面が緑の田園風景だ。

 

そんな最高のロケーションの中で、笹山の‘‘キメが細かい”里芋が入った芋煮をいただく。

それは何とも贅沢な時間ではなかろうか。

 

 

(文/前田健吾、写真/宮武優太郎)

 

 

笹山の芋煮会

 

日程:10月の第4日曜日

場所:笹山地区コミュニティーセンター

チケット:1000円(予定)

購入方法:笹山住民の方にお問い合わせ下さい

 

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