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高校生が向き合う進路 ー 「働くわたしって、どんなわたし?」 日本遺産センターでインターンを行った、津和野高校生に密着!

学生時代、誰もが一度は向き合わなくてはならない「進路」という二文字。大学進学や就職等、選択をする時期はいずれ訪れる。その間で悩む学生たちにとって、決断をするきっかけもタイミングも様々。島根県立津和野高校に通う3年生の村上想(むらかみ こころ)さんは、そんな中インターンシップという機会を手にした。生まれて初めて体験した「働く」ということ。それを経て、彼女自身は何を感じ、何を得ることができたのだろうか。

津和野町日本遺産センター前に立つ村上さん。

“働く前”に働いてみて、「想像とのギャップを埋めたかった」

津和野町で唯一の高校、島根県立津和野高等学校。全校生徒数208名(平成29年度5月現在)、うち津和野町内や島根県内から通う生徒が全体の7割を占め、残りの3割は関東、関西圏等県外からの入学者が通っている。生徒の出身中学の合計は、約50校にもなる。こうした多様なバックボーンを持つ生徒がともに学び、成長していく、そんな類稀な環境が津和野高校内で育まれている。

島根県立津和野高等学校。津和野町で唯一の高校だ。

現在3年生の村上想さんも、そんな津和野高校に通う生徒の一人だ。町内の中学校で学んだ後、津和野高校へと進学した。絵を描くことが好き、という村上さんは、現在美術部に所属。高校のパンフレットの挿絵を担当したり、学校行事の看板デザインを担当したりしながら、大好きな絵を描き続けている。

「初めは、美術の先生を目指していました。だから進学をしようと思っていたし、デッサンの練習もしていた。でも色々と考えて、今は就職という道を選ぼうと思っています」

そんな村上さんが、今年2月から3月半ばまでの約1ヶ月半の間、町内に出てインターンシップを経験。その理由は、働いている自分の姿が想像できなかったから。

「働く、ということを知らずに就職してしまったら、想像とのギャップが埋められなくて、すぐに辞めてしまうかもしれない。それに、働くなんて本当に私にできるかわかりませんでした」

就職という道を選択したものの、まだ17歳の学生。島根県では必要でない限り、高校生のアルバイトも認めていないため、働くことに対しては漠然としたイメージしか持てていない。そんな状況に不安を感じ、インターンシップに行くことを決心したという。

日本遺産センターでのインターンでは、〈Who?〉を考えてTシャツをデザイン

受け入れ先は、『津和野町 日本遺産センター』。日本遺産とは、日本各地域で語り継がれる歴史的な魅力や特色を通し、日本の文化を国内外に発信することを目的とした、文化庁が進めるプロジェクトだ。津和野町は平成27年のプロジェクトが施行された直後に認定され、いわば日本で最初の日本遺産。現在の津和野にも残る幕末期の風習や自然が描かれた、『津和野百景図』を巡るストーリーが評価されたのである。そんな町のシンボル的な存在であり、町の魅力の発信場所とも言える日本遺産センターに、どうして高校生がインターンシップとして受け入れられたのか。

「きっかけは、総合学習という授業の中で何か一緒にできないか、という津和野高校からの提案でした」

そう話すのは、津和野町日本遺産センターの高野龍也さん。

「百景図にまつわる調べ物をしてもらおうとか、日本遺産のグッズやキャラクター作りをしてもらおうとか、たくさんの案が出たのですが、実際に取り組んでもらったのは、Tシャツのデザインを考えてもらうことでした。様々なデザインが上がってきましたよ。初めはそこで終わりにするつもりだったのですが、せっかくだから製品化までやろうという話があがって。Tシャツを作るだけではなく、日本遺産の活動に高校生も関わってもらう事で、若い層にもより知ってもらうきっかけになればセンターとしては嬉しい限り。だからインターンとして来てもらうことになりました」

しかし、インターンに参加する直前、村上さんの心境は、複雑なものだったそうだ。

「総合学習の時間でデザインを発表した時、高野さんたちからはダメ出しが多くて。褒められることが無かった。すごく悔しかったし、その日1日中モヤモヤしていました」

村上さん自身、元々絵を得意としているため、ダメ出しを受けることが今までなかったという。そんな不安な気持ちを抱えた状態で、いざインターンに参加してみると、そのイメージはすぐに覆されたという。

「行く前は不安だったし、またボロボロに言われるんじゃないかって怖かったです。でも、自分でやりたいと思って選んだのだから、最後までやり通そうと思いました。働いてみると、高野さんをはじめとするセンターの皆さんが、とても優しかった。どんな時も丁寧に指導してくれました。多分、授業の時は私たちのことを思って、しっかり向き合ってくれたんじゃないかなって感じています」

日本遺産センター勤める高野さん、米本さんと談笑する村上さん。

村上さんのセンターでの主な業務は、Tシャツデザインの考案だ。

「授業で考えたものを改めて見たら、全然百景図を活かせてなくて。なので、まずは自分が着たいと思うTシャツを考えることから始めてみました」

そのデザインを考える中でも、高野さんからのアドバイスは大きな助けになったそうだ。

「高野さんからは、自由に、好きなように作っていいよと言われました。でも一方で、売れるものを作らないといけない、とも言われて。どっちなのかわからなくて混乱していました。その時に、5W1H(いつ<When>、どこで<Where>、だれが<Who>、なにを<What>、なぜ<Why>、どのように<How>)をまず書くように言われました。それを基に自分が作りたいTシャツというのをより深く考えることができたと思います。特に、「誰に」というところでは、こどもや私たちくらいの世代にも着てもらいたいという思いを強く持っていたので、ありとあらゆる候補を考えました。その結果たどり着いたのがドット絵でした」

デザインのアイデアをまとめたノート。5W1Hに関してやデザインの構想を、細かい部分まで書き込んでいる。

ドット絵とは、コンピュータ上における画像の表現方法の一つ。ファミコン初期のゲームに出て来るキャラクター絵と言った方がわかりやすいかもしれない。百景図から絵を選ぶと、それをまずは手書きで簡略化させる。出来上がった絵を見ながらパソコン上で地道にドット絵を作り上げていったという。

「どの絵を使えば百景図と伝わるのか、インパクトがあるのか、ノートにたくさんデザイン案を描きながら、たくさん考えました。初めてパソコン上でデザインソフトも使ってみて、大変でしたが楽しかったです」

そうして出来上がったデザインは3種類。流鏑馬や鷺舞、そして百景図の第三図に出てくる竹中真虎(まさとら)がキャラクター化され、元々の重厚な印象から、若者でも親しみやすい印象になるよう描かれている。絵と並んでレイアウトされた「PLAY TSUWANO!」も村上さんが考案したものだ。製品開発にここまで深く携われるのは、いちインターンシップでは中々難しいこと。高校生だから難しいことはできない、ではなく、村上さん自身の可能性を信じて任せる、という環境がより彼女を奮い立たせ、デザインの完成を実現させたのだ。

「知らない所で、たくさんの人が動いてくれていた」“町”が支える津和野の教育

インターンシップでの取り組みはTシャツ以外にも広がった。2017年3月19日(日)、津和野町の観光開きに伴い開催されたイベント「日本遺産ウォーク」。津和野の文化財を巡るツアーだ。村上さんも他のスタッフと同様にイベントの運営側として参加した。接客やツアーの進行、参加客の誘導。ここでも村上さんにとって初めての体験ばかりだった。ツアー開始の頃は表情も固く、緊張が見られたが、終盤になると自ら観光客に声をかけ、楽しそうに会話をしたり、誘導したりと与えられた役割をしっかりとこなしていた。そんな姿は観光客の目にも新鮮に映ったはずだ。

イベント参加者を笑顔で迎える村上さん。

しかし、当の本人は納得していなかったようだ。イベントからおよそ1週間後、3月24日(金)にインターンシップの締め括りとして報告会が行われた。津和野高校の校長や教頭をはじめ、多くの先生方が見守る中、その思いは語られた。

「観光客と話すには、百景図や津和野に関する知識をたくさん持っていなければならない。普段は学校と駅の行き来だけで、津和野のことは全然何も知らなかった。お勧めの場所を聞かれても、全く答えられなくて。悔しかったし、本当に申し訳なかった」

仕事で味わう悔しさは、きっと彼女にとってはこれが初めての経験だ。しかし、村上さんはここで挫ける事はなかった。

「コミュニケーション能力が必要だなと感じました。元々話すことに苦手意識があって、たくさん喋るタイプではないからこそ、津和野や日本遺産の知識をしっかり身につけていれば、相手にとって必要な情報を伝えることができたし、もっとここの魅力も話せたと思う。インターンシップを通して、これから私が身につけたいものがたくさん見つかりました」

そう話す真剣な表情からは、強い意志が表れていた。さらに、今後もインターンシップを続けたいという。

「やり残したことがあって、まだTシャツが製品化されていないので、それを見届けたいです。また、今度は手ぬぐいとか他のグッズもデザインしてみたい」

そして最後に少し照れながらこう付け加えた。

「最初は不安だったけど、学校で先生が声をかけて下さったり、励まして頂いたお陰でここまでこれたと思っています。また、インターンシップをすることが決まった後、私の知らない所でたくさんの人が動いて下さっていたことを知って、支えられているんだな、と実感しました。センターの皆さんも私が暗い顔で入ってきた時にすぐに気がついて話を聞いて下さったり、高野さんは何かとすぐに「できた?」と聞いてくるのですが、それは私のことを常に気にかけてくれているからで、嬉しかったです。たくさんのことを教わり、本当に貴重な経験をさせて頂きました。ありがとうございました」

震える声で感謝の気持ちを伝えると、ようやくホッとした表情を見せた村上さん。発表中、紙を見ずに自らの言葉で力強く話していた姿からは、自信のない彼女の姿はなかった。それどころか、その場にいた大人は、彼女の成長を目の当たりにし、逆に勇気をもらったはずだ。

報告会に参加した津和野高校の教員の方々。デザインの出来映えに「これ全部村上さんが作ったの?!」と、

思わず目を丸くしていた。

村上さん自身、卒業後の道が決まるのはもう少し先のこと。それまでの間、また悩むこともあるかもしれない。しかし、どんな選択をしても、勇気を出して行動したことや、多様な大人たちとの出会い、そしてあらゆる気付き、これらすべての要素は、必ず自信へと繋がり、どんな時でも彼女の背中を押してくれるはずだ。

今回、インターンシップが実現した背景には、津和野高校と町との連携にある。高校生だからこそできること、津和野町だから高校生と一緒にできること、それはきっと無限大に広がっている。いつか、この町を担うことになるかもしれない若者たちが、いつもと違った視点で町を見る、それができる環境が、ここ津和野に芽生えようとしている。

(文/玉木愛実 写真/前田健吾、宮武優太郎)

 

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