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「シンプルだからこそ、ごまかすことができない」”あんこ”に込められた和菓子職人・三浦晃三の全て(前編)【和菓子職人×マイスター】

 

 

2017年度のツワノシゴト模様の第1回で取り上げるマイスターは、和菓子屋・三松堂の職人「三浦晃三(みうら・こうぞう)」さん。

彼は、以前インタビューをした三松堂本店店長の阿部さんから、ザ・マイスターと言うべき人物がいるということで、紹介してもらった方である。和菓子職人という肩書きで、しかも熱血漢の阿部さんからの紹介というからには、無骨な男臭い人物を想像していた。が、実際に対面した三浦さんは、終始笑顔を絶やさない柔和な雰囲気をまとった、一般的な職人像とは異なる印象の方であった。

今回は、盟友・阿部さんが語る三浦さんの逸話から始まり、あんこに懸ける思いやこれまでの歩み、今後の展望についてお話を伺ってみた。

 

ー三松堂本店店長・阿部さん談ー

三浦さんは、根っからの凝り性で熱い気持ちを持った「職人の中の職人」と言える人です。

彼は、三松堂の《餡の日》というイベントが始まってからいくつかの商品の生産を担当しているのですが、購入されたお客様から「これ、1年に1回しか作られないんですか!?」「美味しかったんで、また買いに戻ってきちゃいました!」といった声をかけられるようになりました。そのような反応はこれまでにはなかったものなので、今でも頭にこびりついています。津和野高校でのワークショップなど、今後は和菓子がもっと地域で愛されるための取り組みを行っていくつもりですので、三浦さんには和菓子職人のシンボルとしてどしどし表舞台に出て行ってもらいたいですね。

 

 

 

 

 

前編:和菓子とは、餡に始まり、餡に終わる

 

元々はあんこなんて大嫌いだった

 

 

普段は三松堂・本店の工場で働いているという三浦さん。その仕事とは、一体どのようなものなのだろうか。

 

「大体、朝6時くらいに出勤して、直会(なおらい)関係(※1)の和菓子や源氏巻の生産からカット・包装まで行い、時間外で新商品の開発も行っています」

 

三浦さんは、三松堂に入社してまだ3年ほど。にもかかわらず、新商品の開発も手がけているなど、その腕前は折り紙付きだ。彼がこれまで作り出したのは、『餡シュークリーム』や『つぶ餡おはぎ』という、月に1度・第3日曜日に行われるイベント《餡(あん)の日》で出品される商品たちだ。

 

「餡シュークリームは《餡の日》で最も人気のある商品です。自分が作るあんこは味がぼやけてしまいがちなのですが、ここでは源氏巻のこしあんの甘さを生かして、結構な量のバターが含まれているシュー皮の主張を抑え、バランス良く仕上げることを心掛けました。

 

つぶ餡おはぎは、粒あんの口溶けの良さを突き詰めた一品です。これは阿部さんと一緒に作り上げてきた商品なので、本当に大切にしたい、できれば他の誰にも任せたくない自分のこだわりの一品なんです。当初はあまり形や見た目が良くなくて売り上げも伸びず、中々上手くできないなぁと弱気になっていたこともありました。でもそんな時には、阿部さんが背中を押してくれたり、お客様が美味しかったと言ってもう一度買いに来てくださったりと、色んな人に支えられて何とかやってこれました。そういったことを経て、前回の《餡の日》で、やっと、自分の納得のいく見た目の商品に作り上げることができたんです」

 

つぶ餡おはぎ

 

自分が作り出す商品への並々ならぬ思い。『つぶ餡おはぎを誰にも任せたくない』というセリフが一段と力強く聞こえたのは、気のせいではないだろう。

 

そんな三浦さん自身、昔から和菓子に親しみがあったのだろうか。

 

「和菓子はただただ甘いものというイメージがあって……それに和菓子屋っていうと何となく敷居が高い雰囲気がありますし、三松堂に入るまでは全く馴染みがありませんでした。それこそ、元々はあんこが大っ嫌いだったんで(笑)。くどい甘味がつーっと頭に来ることに耐えられなかったんですよね。

けれども、和菓子職人として働くとなると当然あんこに関わらなければならない。かなり抵抗があったんですけど、あんこの入っている源氏巻を食べてみたら、『結構美味しいじゃん!』ってなって、それからあんこに対するイメージが変わりました。あれほど嫌いだったあんこを、まさか自分がこんなにも炊くことになるなんて、夢にも思いませんでしたけどね」

 

 

※1)神社で開催される神事の最後に行われる行事

 

シンプルだからこそ、ごまかすことができない

 

かつてはあんこが大嫌いだったと語る三浦さん。しかし、和菓子職人として働いていくうちに、あんこや和菓子の奥深さに気づいていく。

 

「あんこの材料というと、砂糖・水・小豆・多少の塩といったとてもシンプルな物なんですけど、作り方によっては全く違った味に変わっていくんですよ。同僚の職人・石井さんがよく言っている言葉が、”和菓子とは、餡に始まり、餡に終わる”。かつて、僕が作ったあんこなんてキシリトールみたいなすーすーした味になってしまって、それが本当に不思議で…。自分で大量のあんこを炊かなければいけないこともあるんですが、少量と大量では水分が異なり、風味も変わってくるので、本当に奥深いなと思いますね。

そもそも和菓子って、ほぼあんこだけしか使ってないのにこれだけ種類が豊富にあるってすごくないですか!?あんこ自体でも、砂糖を変えたり、寒天を入れたり入れなかったり、商品によって製法も全く変わってくるんですよね。

和菓子はシンプルな原材料だからこそ、全てが舌にダイレクトに来る。だからこそ、下手に隠すことができないし、ごまかすこともできないんです」

 

 

ちなみに、”和菓子とは、餡に始まり、餡に終わる”という格言を残している石井さんは、三松堂の看板商品・レシピのない和菓子『こいの里』を作ることができる唯一の職人だ。

和菓子には欠かすことのできない餡の奥深さを知った三浦さんは、誰もが納得するものを作るべく、どこまでもストイックに研究を重ねていった。

 

「目玉商品の『いちごの大福』や『こいの里』は自分なりに研究しましたね。『いちごの大福』は求肥(※2)と白餡、苺のみ。苺は酸味が特徴的なのですが、餅やあんことの相性はとても良い。『こいの里』なんてほぼあんこだけ。それぞれあんことの単純な組み合わせの和菓子であるにも関わらず、なぜこんなにも奥深さが出てくるのか?これからも分析していきたいですね。

また、津和野で作られている7社のお店全ての源氏巻を食べ比べてみたり、糖度や賞味期限など集められる限りの情報を記録しました。源氏巻も、皮とあんこだけのシンプルな材料なのに、どこで美味しさが変わってくるのか?三松堂の源氏巻は割とサッパリとした味わいなんですけど、それが果たして美味しさに繋がっているのか?そもそも美味しさとは何なのか?ある店の源氏巻はアーモンドの香りがしたんです。それって多分油の香りなんですけど、油が違うだけでも全く美味しさが変わってくるんですよね」

 

三浦さんのノートには源氏巻の情報を始め、和菓子の歴史文化、細かい成分表、自身の疑問など、あらゆる情報が所狭しと記録されている。このマメさこそが、商品を洗練させるための重要な資質であることは疑いようもない。

 

誰もが納得するものを作り上げるために、既存のものを科学する三浦さんの姿は、作品の完成度をどこまでもストイックに突き詰めるマイスターの姿そのものである。

 

※2)ぎゅうひ/餅粉と砂糖、水飴から作られた生地のひとつ

 

理想の粒あんは、口の中でフッと溶けて無くなっていく

 

三浦さんは、他商品の研究のため時には町外にも足を運ぶなど、自身の商品を洗練することへの労を惜しまない。

 

「津和野近辺のある洋菓子屋に、あんこの風味を生かしたおはぎがあると伺って、それを食べに訪れたこともありました。かなりの期待感を抱いて、本物を見極めたいからと写真もたくさん撮りもって、そしていざおはぎを食してみると、全く風味が立っていなかった……あの瞬間はめっちゃがっかりしましたね。そんなことがあり、今自分が開発に関わらせてもらっているあんぱんにおいては、あんこの風味を引き立たせることを目指して、日々試行錯誤しています。

 

また、京都の祇園四条に『かさぎ屋』という甘味処があるのですが、その店のおはぎを食べた時と言ったら、それはもう衝撃!一般的なおはぎは硬めのもち米で粒あんが覆われているのですが、『かさぎ屋』のそれは、食べた瞬間、もち米本来の甘みを残して口の中でフッと溶けて無くなっていってしまった……。現在、《餡の日》でつぶ餡おはぎを出していますが、『かさぎ屋』のおはぎを理想として、口溶けには特にこだわっています。もちと同様の食感になってしまってはダメで、口の中でフッと溶けて無くなるような、お客様に『これ本当にもち米が入ってるの!?』っていうリアクションになってもらいたいんですよね」

和菓子への情熱はそれだけに止まらない。寝る時以外は徹底して仕事に向き合い続ける、正にそのような生活を三浦さんは体現していた。

 

「去年から家では、この小さな鍋を使ってあんこを炊くようになりました。これは兄から貰ったダッチオーブン(※3)のようなもので、熱伝導が大変良いことから、あんこの炊き出しに向いているんですよ。ちなみに三松堂であんこを炊くときは、同じく熱伝導が良い銅鍋を使っています。

 

 

僕は、風味を生かしたあんこを作るために、シブを抜かない(※4)製法を模索しています。普通は大体はシブを抜くんですけど、2、3割の和菓子屋ではシブを抜かずにあんこを作るんです。小豆は発芽する小さな穴からしか水分が入らなくて、煮て水分が入ると伸縮して旨みが煮汁に溶け出ます。それを捨てて旨みを見す見す逃すのではなく、旨みが詰まっている煮汁を生かしたいんですよね。

かつて三松堂で行われた勉強会で、フードコーディネーターの方に『シブ抜きをしないのは美味しさじゃない』って言われたことがあったんです。それをせずに美味しいあんこを作り上げることはもちろん難しいんですけど、シブ抜きをしない方が絶対に美味しく作れるはず!何とか見返してやりたいですね。」

 

※3)蓋に炭火を載せられるようにした分厚い金属製の蓋付き鍋

※4)小豆の茹で汁を捨てないこと

 

(文・写真/前田健吾)

 

後編はコチラ(”あんこ”に込められた和菓子職人・三浦晃三の全て(後編)【和菓子職人×マイスター】)

 

三浦晃三(みうら・こうぞう)

 

職業:和菓子職人

生年月日:昭和47年1月22日

血液型:B型

出身:山口県阿東町

 

ローカルニッポンに掲載された三松堂社長・小林智太郎さんのインタビュー記事はコチラ

 

三松堂本店店長・阿部さんの過去記事はコチラ

 

三松堂の和菓子は、『津和野町ふるさと納税制度』からもお求めいただくことができます。詳しくは外部サイトまで。

外部サイト:ふるさとチョイス「津和野名物「源氏巻」と「ふくしろ」を含む和菓子詰合せセット」

 

《餡の日》は毎月第3日曜日に開催されます。詳細情報につきましては、三松堂にご確認ください。

和菓子処 三松堂 本店

 

営業時間:8:00~18:00

定休日:なし

駐車場:7台

TEL:0856-72-0174

 

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