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”世界はどこまでもシンプルである”ー大ベストセラー『嫌われる勇気』に学ぶ幸福論。

 

嫌われる勇気がないだけ

 

夕日

かつて1,000年の都と謳われた古都のはずれに、世界はどこまでもシンプルであり、人は今日からでも幸せになれる、と説く哲学者が住んでいた。納得のいかない青年は、哲学者のもとを訪ね、その真意を問いただそうとしていた。悩み多き彼の目には、世界は矛盾に満ちた混沌としか映らず、まして幸福などありえなかった

 

この一節は、時代を100年先行しているといわれた心理学者「アルフレッド・アドラー」氏の考えを基に、哲学者(以下、哲人)と青年が対談する形式で展開される入門書『嫌われる勇気』の序文である。

 

累計180万部を超えた大ベストセラー『嫌われる勇気』は、日本で一時期アドラー旋風を巻き起こすほど社会に多大なる影響を与え、今も多くの読者に愛されている。

 

世界は矛盾に満ちた混沌としか映らず、まして幸福などありえなかった

 

あなたの目には、今の世界はどう映っているのだろうか、幸せだと感じているのだろうか。

その内容が多くの人が求めているものだったからこそ、『嫌われる勇気』がベストセラーになったのではないか。

 

2016年2月26日の日曜日の夜、その『嫌われる勇気』をテーマにした読書会が津和野町民センターにて行われた。

 

良くも悪くも人のネットワークが濃い津和野では、自分が生きる道は対人関係にどのように向き合うのかによって開かれる、と言っても過言ではない。

 

この読書会は、津和野での生き方、ひいてはどんな場所でも幸せに生きていくためには自分がどうあるべきなのか、を学ぶ会である。

 

津和野に限らず、世界で最も幸福度が低いと言われている日本。

本記事においては、この読書会の内容を中心に、『嫌われる勇気』の内容をまとめていく。

それを通じて、読者の皆さんが“幸せになるための気づき”を得てくれたら幸いだ。

 

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自分が変わるための心理学

 

アドラー心理学とは、他者を変えるための心理学ではなく、自分が変わるための心理学です。他者が変わるのを待つのではなく、そして状況が変わるのを待つのではなく、あなたが最初の一歩を踏み出すのです。

 

この読書会を開催したキッカケは、「自分の理解を超えた気づきが得られる」と考えたからだ。

以前に自分たちの知り合いで『嫌われる勇気』についての感想を述べ合った際に、自分とは異なる視点を持った意見を聞くことができた。性格や経験は人ぞれぞれ違うから、より多くの気づきを得られる。そんな時間はとても新鮮なものであった。

 

そういったことから、異なった立場の人々が一同に会して本に対する気づきや思いを共有すれば、また新たな気づきを得られるのではないか。ちょっとした期待と好奇心を胸に”最初の一歩を踏み出して”この読書会を開催した。

 

以降、私以外の3人の方のコメントを交えながら、今回のテーマである『嫌われる勇気』のエッセンスを紹介していく。

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人生の嘘

 

アドラーは様々な口実を設けて人生のタスクを回避しようとする事態を指して、「人生の嘘」と呼びました。

 

和菓子屋「三松堂」店長・阿部龍太郎(あべ・りゅうたろう)さん

「私は”人生の嘘”という考えが、心に残りました。『嫌われる勇気』に登場する青年のように、私は以前は他人のせいにするばかりの人間でした。それが、高校を卒業して「三松堂」に就職してから、他人に何かを求めるのではなく、自分が変わることで物事が進んでいくことを実感し、徐々に意識が変わっていきました。」

 

阿部さん

 

 

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(本の内容を基に、前田が作成)

 

 アドラーは上図左のように、人として生きていく中で必ず直面する対人関係を、ハードルの高いものから「愛のタスク」「交友のタスク」「仕事のタスク」の3つに分けた。それら”人生のタスク”と向き合うことにより、上図右のような人生における心理・行動目標が達成されるという考えである。

 

 ”人生の嘘”という点で阿部さんがかつての自分を思い出したのは、上図の対人関係にまつわる人生のタスクから逃げていたからなのだろう。阿部さんの場合、何か周りや環境のせいにしていたのも、アドラーの言葉を借りると”自分は変わらない”という目的に沿って動いていたからだ。だが、彼は自分が過ごしている環境の中で”自分が変わらないといけない”ということに気づき、自分の意識・行動を変えていった。私が知っている阿部さんからは想像がつかないが、昔はヤンチャであったと自身を振り返る。だが、彼は傷つくことを恐れず、対人関係の中で人生のタスクに向き合い、過去の自分に縛られることなく新たな自分を築き上げていった。人は他人にも過去にも縛られない、自分自身の今の目的によって、どうとでも変わることができる、そんなことを強く実感した。

 

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課題の分離

われわれは、「これは誰の課題なのか?」という視点から、自分の課題と他者の課題とを分離していく必要があるのです。

 

津和野町郷土史家・森鴎外研究家・山岡浩二(やまおか・こうじ)さん

「私が人生60年かけて学んできたエッセンスが『嫌われる勇気』に詰まっていました。私と同じ思いを持っているアドラーという人がかつて存在していたということは素直に嬉しかったですし、この本を読める今の若い世代の人達を羨ましく思いますね。

自分のこれまでの人生を振り返ってみて、”全ての悩みは対人関係に起因する”というのは、本当にそうだと思います。若い頃の私は何事も全てできないと気が済まない完璧主義者のようなところがあり、一時期は円形脱毛症になるほど悩んでいたこともありました。でもある時、結局悩んでてもしょうがないと割り切り、自分と他者の課題を分ける、自分の中でも解決できるものとできないものを分けて考える、つまり”課題の分離””肯定的なあきらめ”をするようになりました。他者の課題に踏み込まず、自分のこともある点で諦めるということ、とても大切な点だなと印象に残りましたね」

山岡写真

 

かつては完璧主義者で、円形脱毛症になるほどのストレスや悩みを抱えていたという山岡さん。この”完璧主義者”というワードから考えてみると、当時の山岡さんは”他者の期待を満たす”ために生きていたのかもしれない。アドラー心理学では、”他者の期待を満たす”ことは承認欲求に起因するとし、承認欲求から解放されて初めて人は自由になれるとされている。つまり、「自由とは他者から嫌われる」ことを指しているのである。

 

そこで、自分の課題と他者の課題とを分離して考える”課題の分離”を考えることが必要になってくる。傍若無人な振る舞いをして他者の課題に土足で踏み込むのではなく、「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?」を考えなくてはならないのだ。

 

例えば、子供が料理をするために包丁を使いたいと言ったとしても、親は子供から包丁を取り上げるといった行為をしてはいけない。つまり、子供(他者)の課題を奪ってはいけないのである。アドラー心理学では、他者の課題に土足で踏み込むことこそ、最も自己中心的であるとしている。子供は親の期待を満たすために生きている訳ではなく、親も子供の期待を満たすために生きている訳ではないのだ。この場合、親は子供に自分の課題に向き合わせ、親自身はどこまでが自分の課題かを考えて行動しなければならない。

 

また、山岡さんは”肯定的なあきらめ”についても述べている。”課題の分離”と同じように、変えられるものと変えられないものを見極めるということである。我々は「与えられているもの」について変えることはできないが、「与えられたものをどう使うか」は自分の力で変えることができる。それができてこそ、「ありのまま」の自分を受け入れることができ、自分の力で未来を切り開いていくことができるのだ。

 

他者の課題に踏み込むのではなく、変えられないものについて悩む必要もない。自分の人生のタスク自分が変えられるものに注目することによって、自分以外の何にも縛られない、無限の可能性の中を生きていくことができるのではなかろうか。

 

山岡さん

 

 

いま、ここを生きること

 

こう考えてください。人生とは、いまこの瞬間をくるくるとダンスするように生きる、連続する刹那なのです。

 

屋台準備中の地域おこし協力隊・小林愛真美(こばやし・あまみ)さん

「まず、この本のタイトルは『”嫌われる”勇気』ではありますが、この本の内容をきちんと実践できていると、結果”嫌われない”じゃんという感じですよね(笑)

あと、山岡さんがおっしゃっていた、森鴎外の「過去なんて昨日食べた飯のようなものだ」という言葉がとても刺さりました。昨日食べたご飯のように過去のことなんて気にする必要はないが、その食べたご飯は確実に自分の血となり骨となっている、との意味ですね。この『嫌われる勇気』に登場する青年は、過去のことを気にしてウジウジしているんですが、かつての自分もそのようなところがありました。でもある時、『嫌われる勇気』にもあったように、変に過去を気にするんではなくて今の自分の目的に集中すればいいと気づき、自分が変わることができましたね」

 

あまちゃん

 

『嫌われる勇気』の内容を実践できていれば、結果嫌われないという指摘は非常に鋭いように思える。かつて『嫌われる勇気』に登場する青年のようなところもあったと語る小林さん。彼女はそんな青年の姿に自分の過去を重ね合わせ、ネガティブな感情を覚えたのだと言うが、それは今の小林さんが過去の自分から大きく変わったからなのだろう。

アドラーは言った、「人生の意味は、あなたがあなた自身に与えるものだ」と。「世界はどこまでもシンプルであり、人は今日からでも幸せになれる」と序文にあったように、”人生の嘘”に縛られず、また”他者の期待”にも縛られず、自分の今の目的さえ変われば、この瞬間から変わることができるのだ。過去に原因があって今の自分があるのではなく、今の自分が過去にどんな意味づけを与えるかによって、自分の生き方が変わってくるのだ。

小林さんは現在、津和野町での屋台の開店に奔走している。今、この瞬間を生きている彼女の姿はどこまでも輝いている。そういった姿を見ていると、幸せに生きていくための答えというのはどこまでもシンプルだなと、感じざるを得ない。

 

世界はどこまでもシンプルであり、人は今日からでも幸せになれる

 

出身・年代・業種がそれぞれ異なる参加者が集まったこの読書会。

彼らから出る意見はどれも自分のエピソードと照らし合わせて出てきたものだったが、結局のところ、それらの本質はいつも”対人関係にどう向き合うか”や”今の自分の目的について”といったところにあった。

やはり思うのだ。”世界はどこまでもシンプル”である、と。

アマちゃん

 

(文/前田健吾、写真/宮武優太郎)

 

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