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カルチャーショックは柿木村から(!?) “音で繋がる本屋”さん、「音鳴文庫」八木さんインタビュー

 

津和野町の町中から車でおよそ30分、隣町の吉賀町は柿木村にそれはある。

津和野と比べても、より一層山奥に位置している柿木村は、豊かな自然に恵まれており有機農業などでも非常に注目されている地区である。

そんな柿木村にて、新潟からのIターン移住者である八木諒平(やぎりょうへい)さんが、4月から新たに「音鳴文庫(おとなりぶんこ)」という本屋をオープンする。

そして、ツワノシゴト模様にて何度も取り上げてきた津和野町の”医食同源”レストラン「糧」にて、3月までの期間限定で本を出品している。

一緒にいると、どこか空気の流れがゆったりするような、とても独特な雰囲気を持っている八木さん。

 

津和野町も含めてほとんどない本屋を、なぜ開業しようと思ったのか、

そこに対する彼自身の思いとは、

湧き上がってくる疑問を胸に、八木さんにお話を伺ってみた。

 

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お金に縛られたくない

春から秋にかけては数多くのイベントが開催される津和野町。

町民に津和野の冬はどのようなものなのかを伺うと、皆一様に津和野の冬は本当に厳しいと言う。

 

ここ柿木村も津和野町同様、もしくはそれ以上に冬の寒さ、積雪は厳しいようだ。

柿木村から益田市方面へ向かう途中に大きな赤い橋がある。その右側にある脇道、ここを抜けてすぐの所に、八木さんの自宅兼本屋の音鳴文庫」はある。

 

外付けの階段で2階に上がると、ちょうどバーベキューできるほどの大きさのテラスと、オレンジ色に照らされているカフェサイズの部屋がある。

部屋の中は、いくつかの小さな椅子と石油ストーブが置いてあるだけ。

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「ほんとめちゃくちゃ寒いね」と声をかけてくれる八木さん。

お手製の巻きタバコを燻らせながら、こだわりの紅茶を我々に注いでくれた。

現在はクラウドファンディングにて、音鳴文庫の工事と開業の資金集めをしており、昨年の5月に壁を塗り変えて以降は、部屋にはほとんど手をつけていないのだという。

 

「経済優先ばかりになっている世の中が嫌でこっちに移住してみたんだけど、本屋を開業するに当たって、クラウドファンディングを通してお金を集めることにした。ネット上での集金とは言え、結局リアルの場でクラウドファンディングのお願いにまわっていることが多いね。そうやって活動していると、自分の知らない人を紹介してもらえてね。

お金の方はまだ目標額からほど遠いんだけども(笑)、それでも人との交流がやっぱり好きだし、心はもうみなさんの温かな気持ちで100%満たされてしまったんだよね」

半ば笑いながらそう語る八木さんの表情からは、一片の曇りも見えない。事業の初期投資というと、いくらオンライン上の集金といっても、人との直接の繋がりが重要になってくる。

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お金ばかりが優先のライフスタイルがあまり好きではないという八木さん。しかし、今回のクラウドファンディングでの活動に共鳴し、直接現金を渡してくださる方もいるのだという。

 

「こうやってお金を集める活動をしているとさ、手渡しでお金をくれる人もいる。もちろん嬉しいんだけど、なんかね、ウッてなってしまうんだよね。パソコン上で集まった額だけ見てると、まだまだ実感が伴わないんだけど、直接お金を渡されると、お金の重みが実感となって伝わってくる。

このお金の重みを実感することができたのは、支援をいただく以上によかったところかもしれないね」

 

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原発事故をキッカケに

どれだけネット上でのやり取りが活発になったとしても、結局のところ対面のやり取りが一番心を動かすのだろう。「お金がどうしても一番先に出てしまうような生活が嫌だった」という八木さん。一体、どのような経緯で柿木村に来たのだろうか。

 

「高校を卒業するまでは新潟で過ごして、そこから栃木で作業療法士として働いていたんだよ。新潟は好きな場所ではあったけど、外に出てみるからこそ、地元の良さを知ることができるのではないかという思いはずっとあった。けど東京はゴミゴミしているイメージが強くて、栃木に作業療法士の学校があったから、新潟でも東京でもない場所として栃木を選んでそこで7〜8年過ごしてきた。

作業療法士に強く憧れていたわけでもなく、勉強もそれほどできるほうではなかったし、わりと消去法な感じで選んだのかな」

 

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高校を卒業してから約7年間を栃木県で過ごしてきた八木さん。それとなく過ごしてきた生き方を見つめ返すキッカケとなった出来事が、2011年のあの出来事であった。

 

「東日本大震災があったでしょ。あの時、原発事故のニュースがたくさん取り上げられて、なんかこう、お金ばかりに頼る生活はもう止めようと思って、ライフスタイルを見つめ直そうってなったんだ。

それ以前に日本を自転車で縦断したり、タイとかカンボジアの『ウルルン滞在記』みたいな田舎と呼ばれるところに行ったこともあったし。小さい頃から冒険が好きだったから、何となく、そういう国境を越えることもやってみたかったんだよね。泊まるところも現地で直接手配したり。

だから、住み慣れた土地を離れて知らない場所に移住することには、そんなに抵抗はなかった。そんなこんなで、2015年の4月末に柿木村に移住してきたんだ」

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八木さんだけではなく、津和野の移住者の中にも、あの原発事故をキッカケとして移住してきた方が多く存在する。完全な印象論になってしまうが、そういった方達は、田舎でのライフスタイルを本当に楽しんでいる感じを受ける。それにしても、数ある田舎の中で、なぜ柿木村を移住先として選択したのだろうか。

 

「もともと自給自足や田舎への憧れみたいなものがあったんだよね。他にも色んな候補があったんだけど、何度か足を運ぶうちにその雰囲気に惹かれて、柿木村を選んだ。こっちでは、半農半Xみたいな生活をしてみたかったから、目の前に田畑が広がっているこの家を選んだ。

最初は畑もやってたんだけど、毎日コツコツするのがあんまり得意じゃ無くて、今はあんまり一生懸命は出来てないかな(笑)」

 

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カルチャーショックが起きる場に

我々の質問に対して、隠すことなくためらうことなく、自分の思いを淡々と話す八木さん。しかし、ここまで本に関するエピソードが特に出てくることはなかった。一体、なぜ柿木村で本屋を始めたいと考えたのだろうか。

 

「20代の始め頃から、カフェか居酒屋か雑貨屋なのかとか形はわからなかったけど、自分の場所が欲しいとは思っていた。それで、2015年の秋頃に、「柿木に本屋はないし、ほしいなあ」と思ってスタートした。この『音鳴文庫』の”音鳴”という名前も、その時にフッと降りてきたんだよ。

そもそも本はそこまで多くは読む方ではないんだけどね。小学生のときに読んだ『15少年漂流記』はめっちゃ好きだけどね。やっぱり当時から、冒険が好きだったんだろうね」

 

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ここ『音鳴文庫』は本だけでなく、カフェやCDのスペースを設け、バルコニーで地元野菜の販売を考えているのだという。本屋ということにこだわらず、人が交流して、話ができるようなスペースにすることを目指しているのだという。

 

「きれい過ぎる音楽が流れていて、洗練された雰囲気があると、それもいいけど居心地はあんまり良くない気がするんだよね。

ここではどんどん人と人がしゃべってもいい本屋にしたい。その結果、この地域の交流拠点みたいな感じなってくれたら最高だと思ってるんだよね。だからカフェスペースではアルコールも提供するし、CDの試聴もしてもらってオッケー。

あと農家さんが周りにたくさんいるから、野菜には困らない。このバルコニーにマルシェを設置して、農家さんが出荷できない規格外野菜も売るつもり。規格外だからって、捨てられてしまうのはすごくもったいないしね。田舎ならではの、密な付き合いを活かしていきたいね」

 

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都市にある一般的な本屋というと、確かに堅苦しく、気軽に話せない雰囲気がある。しかし、音鳴文庫はそんな本屋とは真逆のスタイルである。一体、どんな本やCDが並べられるのだろうか。

 

「特にジャンルは決めてないよ。

あえて言うなら、旅、エッセイ、写真、アート、デザイン、カルチャー、音楽、暮らしとか、そんなのがキーワードになるかな。とにかく自分がおもしろいと思った本だけを置いてく。CDも同じく、自分がおもしろいと感じるものだけ。JPOPもいいけど、いわゆる大手のレコード会社に所属していないアーティストから、直接CDを卸してもらってるんだよ。

伊豆を中心に活動している『天草(てんぐさ)』っていうバンドや、4人家族で旅をしながら活動している『ジュンノス』、『ボビン』っていうネパール出身のアーティストとか。全然わからないでしょ(笑)」

気になった本をいくつか手に取ってみる。内容はわからないが、何か本そのものが熱を持っているようだ。

パラパラとめくってみると、”かっこいい”や”すごい”というような、言葉ではなく五感を通じて、感動を覚えるものばかりだ。内容にフォーカスしない、手に取った肌触りや目で見た印象で楽しむ本を置いた本屋というのは、これまで出会ったことがないかもしれない。

 

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「人気書籍を読むんだったら、ここじゃなくてもツタヤやアマゾンとかにもあるし。ここに置くのは自分好みの本ばかりだけど、色んな人が来て必ずしも気に入らなくてもそれでいいと思ってる。そうやって、好みじゃないものを知ることも結果的に自分の好みを知ることにつながると思う。そういう世界もあるんだくらいに思ってもらって、いい意味でカルチャーショックを受けるような機会になればいいかな。だから本当、色んな人に来てもらいたいね」

 

メッセージ性があるような、ないような、型にハマらない言葉が次々と紡がれてくる。しかし最後に、彼の口から、本当の彼の思いが、芯のある力強い言葉としてゆっくりと発せられた。

 

「今はさ、一般的なキャリアで言うと、大企業に就職したり組織に所属したら、毎月決められたお金は入ってくるし、それって確実で安心みたいなところがあるよね。

けどそんなのはただの妄想だと思っていて、実際は会社だっていつ潰れるかわからないし、組織だっていつかなくなるかもしれない。要は、そんな状況だって不安定だし不確実なんだよね。今こうやって本屋をやるために自分で動いているけど、さっき言ったようなキャリアの人たちと結局変わらない。

多数派だから安心なんてことはなくて、結局”自分がどういう人間”かを見つめること。そこにしか答えはないと思ってる」

 

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震災をキッカケに、自分の生き方を見つめ直し、ここ柿木村に移住された八木さん。

インタビュー中にも全く自分のペースを崩さないない彼に、我々はいつのまにか独特な雰囲気に包まれていた。

柿木村にはない本屋や交流の場を自らの手で作り出すといっても、そこに強烈なメッセージ性はない。

だがここ『音鳴文庫』は、本屋やブックカフェというありきたりなカテゴリーに縛られない、八木さんのメッセージが具現化されたような場所だ。

そんな『音鳴文庫』となるこの木造のワンルームの部屋に、言葉で紡ぐことのできない、無限の可能性が見えた気がした。

(文/前田健吾、写真/宮武優太郎)

 

今回インタビューした八木諒平さんの、『音鳴文庫』クラウドファンディングページは、以下になります。

※支援期限は、2月9日23時59分までとなっております。

 

CAMP FIRE

『島根県!本屋のない柿木村に、自分が通いたいセレクトショップ『音鳴文庫』をつくる。』

音鳴文庫

音鳴文庫

島根県鹿足郡吉賀町柿木村白谷494

 

また八木さんが、1月28日〜3月末まで限定で本屋オープンされる「糧」の情報は以下になります。

《糧 ハタガサコ×72recipes project》

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〒699-5622 島根県鹿足郡津和野町邑輝830(堀庭園敷地内旧畑迫病院)

レストラン 11〜14時(L.O. 13時30分)

カフェ 11〜16時(L.O. 15時30分)

定休日 月曜日(レストランは土日祝日のみ営業)

公式HP http://72recipes.jp/

Facebook https://www.facebook.com/72recipes/

Tumblr http://72recipes.tumblr.com/

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