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「私が大好きな地元を伝えたい」小さなバスガイドがご案内、木部地区の“マイスタ”ーを巡る旅

 

津和野町には、“木部地区”という集落がある。

古くは銅山で栄え、一時は人口が2000人近くまで膨れ上がったこの地域だが、現在の人口は600人ほどだ。

そんな木部地区にある唯一の小学校、“木部小学校”。全校生徒わずか15名の学校だ。

その小学校に通う一人の児童が、「私が住む木部の良さを伝えたい」

という思いから、地区外の人を乗せて木部地区の魅力を届けるための

バスツアーを企画したという。

小さなバスガイドが“木部”をご案内

11月30日の朝。津和野の駅前に、可愛らしいミニバスが現れる。普段は木部小学校のスクールバスとして運行しているものだ。

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バスに乗り込むと、小さなバスガイドが現れた。

「今日はご参加いただき、ありがとうございます。私が小さい頃から育った木部地区の魅力を伝えたいと思い、このバスツアーを企画しました。ぜひ、木部を楽しんでいってください」

彼女の名前は水津優奈(すいづ ゆな)さん。木部小学校に通う6年生だ。このバスツアー企画は、小学校の総合学習の授業の時間で考えられたもの。地域住民の方々や、学校教員の方々の協力の下、半年前から準備していたという。

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拍手で迎えられ、和やかな雰囲気のまま、ゆっくりとバスが動き始める。

バスが20分ほど走ったところで、窓の外に目を向けると、開け放ったような緑の田園が広がっている。ここが、津和野町“木部地区”だ。周囲を山に囲まれている津和野の中でも、木部は土地が開けており、日照時間が長い。農業を生業にする者も多い、自然豊かな地区だ。

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木部の魅力溢れる“マイスター”たち

最初の目的地に辿り着いた。“栗農家マイスター”の桑原さんの栗農園である。

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桑原さんの農園で採れた栗は、一粒一粒がとても大きい。普通の栗の1.5倍はあるのではないだろうか。

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突然、「ピーッ!」という笛が鳴り響いた。水津さん考案のクイズゲームが始まったのだ。

「桑原さんの栗農園は開いてから、何年になるでしょう?」

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「難しいねえ」と首をかしげながら、参加者は解答に手を挙げる。正解は・・・?

「③番の50年間です!」

なんと20代で栗農園を開いた後、50年もの間経営に携わっていたそうだ。若い頃にアメリカに渡って苺や菊の栽培を行い、その知識を今に活かしているという。現在もご夫婦二人で、栗を年間5万個も収穫しているそうだ。

正解した人には、「ちしゃの木」の“栗のグラッセ”が贈呈された。不正解だった人にも、水津さんからプレゼントが配られる。

それは・・・

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手作りの、栗おこわである。可愛らしい緑の銀紙に包まれたそれは、一足早いクリスマスプレゼントのよう。

「使っている栗は、桑原さんの農園で採れた栗です。木部の新米を使って、炊き込みました。朝早くから一つ一つ栗の皮を剥いて、栗ご飯にするのはちょっと大変でした」

と水津さんは語る。

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新米の柔らかい食感と、栗の甘さが感じられる栗おこわは、栗の甘さが感じられる栗おこわには、手作りの優しさが詰まっていた。

桑原さんの農園を発つと、車内では木部の豆知識講座が始まった。木部地区には準絶滅危惧種に指定されている、モリアオガエルも生息しているという。それも、木部の豊かな自然があってこそだ。

泡のような卵を、竹林に産み付けている写真を見せてくれた。

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一行を乗せたバスが次に訪れたのは、“梅干しづくりマイスター”の岸田さんのお宅だ。

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「岸田さんの梅干しは、着色料が使用されていません。一粒一粒がしっかりと味付けされている、美味しい梅干しなんです」

そう水津さんは説明してくれた。早速私たちも岸田さん自慢の梅干しを試食させてもらうことに。

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大ぶりな果肉を口の中に運ぶと、強い酸味が広がっていく。岸田さんの梅干しを一口食べると、参加者もこの表情。

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「梅干しの他にも、黒豆も作っています。道の駅にも卸しているんですよ」と語る岸田さん。空いた時間には津和野の町に出て、カラオケの講師もしているそうだ。

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水津さんとのやりとりや、彼女を暖かい眼差しで見守る表情が、子供たちと地域の大人たちの親密度を物語っていた。

岸田さんに別れを告げ、バスに乗り込むと、移動中にも関わらず台本を読みこむ水津さんの姿があった。このツアーを成功させようという、水津さんの強い気持ちが伺えた。

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最後の木部の“マイスター”は、糸賀盛人(いとが もりと)さん。“糸賀のおっさん”の愛称で地域住民から親しまれ、「おくがの村」という農業組合法人を運営している。

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糸賀さんは、木部地区と奥ケ野集落の魅力を説明してくれた

「木部地区の“奥ケ野(おくがの)”という集落に私は住んどりますが、ここは高津川の最上流に位置しているため、本当に綺麗な水が流れます。薪ストーブを導入している家も多く、まさに自然とともに生きている集落ですね。この地域は後に津和野城を築くことになる、吉見氏が最初に城を構えた場所。言うなれば、”津和野の発祥の地”とも言えます」

ここで水津さんが思う、木部地区の魅力“ベスト3”を発表してくれた。

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「まず、高津川の源流水から引かれた”水”。特に奥ケ野集落は、全部の家が地下を流れる天然水を使って生活しています。それほど、水に恵まれた地域なんです。

次は、土壌の良い赤土のもとで育まれた”お米”。綺麗なお水と、豊かな土で育ったお米はとても美味しいです。

そして津和野の町中では見られない、自然の中で見る”夕日”は、とても綺麗で大好きです」

そして奥ケ野集落の自然をバックに、水津さんと糸賀さんが『ふるさと』を演奏してくれた。リコーダーとハーモニカの奏でる音と、バックに広がる風景が実にマッチする。木部の風景は、まさに『ふるさと』の歌詞そのものだ。二人の演奏は、どこか懐かしい、日本の原風景を想い起こさせた。

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木部小学校でのサプライズ

糸賀さんの元を離れた後、一向が乗るバスは津和野駅の方へと向かっていった。木部の魅力を十分楽しむことができた私は、津和野の見慣れた中心地へと向かっていくと思っていた。

しかしバスは途中の角を曲がり、木部小学校の方へと向かっていったのだ。

そこで待っていたのは・・・。

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木部小学校の生徒たちだ。我々が来るのを待ち、サプライズで準備してくれていたのだ。

聴き覚えのある曲が流れると、児童たちはダンスを始める。

曲は3代目j soul brothersの、「R.Y.U.S.E.I」。

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息の合った、見事な“ランニングマン”を披露。粋なサプライズ演出に、観客も大きな拍手で称え、会場は大いに盛りがった。

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最後に木部小学校の全児童で、合唱曲を披露した。

曲名は、「Dream&Dream~夢をつなごう~」。子供達はわずか15名だが、力強く体育館に響きわたる一人一人の歌声に、思わず心を揺さぶられた。

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このバスツアーの最後のプログラムは終了した。最後は児童全員でのお見送り。木部小学校の生徒たちは、皆、最後まで笑顔だった。

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参加者の中には、津和野に住んでいながらも木部に来たこともないという人もいたが、帰りのバスでは「よかった」「感動した」という声で溢れていた。

帰りの車内では、どこか安堵した表情に変わっていた水津さん。

最後に、彼女はこう語った。

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「今日は参加していただいて、ありがとうございました。木部の魅力を感じていただけましたでしょうか。どうか、木部のことを伝えていただけたら、嬉しいです」

小学6年生が、半年前から企画したこのバスツアー。大好きな木部の魅力を伝えるべく、「この地域の良さとは何か」を模索しながら企画していった。

イベントに集まった木部の小学生達や、特産品のマイスター達、皆が「笑顔」であるのを見て、「こんなにも仲の良い地域があるのか」と強く感じた。

魅力ある“人”、豊かな“自然”、素晴らしい“ものづくり”。

木部の魅力に心動かされた私は、この地域のことをこれからも発信していくことだろう。

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(文/宮武優太郎)

 

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