江戸時代から続く由緒あるお香製品などを扱う雑貨店のご主人「分銅屋・七右衛門」椿さん
寒い季節になってきた。
それほど北に位置していないとはいえ、津和野の冬はかなり寒いそうである。さて今回はこの立派な佇まい。津和野の本町通りに面する風情溢れるお店「分銅屋七右衛門」にやってきた。
名前からはどんな店なのか想像しにくいかもわからないが、ここはお香や香箱、その他日本の昔ながらの雑貨が置いてあり、また長い歴史をもった由緒正しいお店である。とにかくお店に入ってみよう。「ごめんくださ〜い」中から出てきたのは、エネルギッシュそうなここの女主人である椿さんだ。聞くに、お一人でこのお店を切り盛りされているとのこと。
インタビュー中にはすごく気を使っていただいて、お店のこだわりを細部まで語ってくださった。それにしても、商品から内装までの徹底的な気遣い。感服する。
古いものからパワーを
「このお店の物は、できるだけ江戸時代の物をそのまま使っているんです。」
この建物はなんと163年前に建てられたとのこと。つまり、嘉永6年、西暦でいうと1853年に建てられたのだ。というのも、その時に津和野で大火事が発生し、当時の建物は全焼してしまったからである。その時に焼け残った廃材を使って、現在の建物を新たに建てたのだとか。そんな数字まで全て正確に我々に伝えてくださる椿さん、恐るべし。節々に徹底的なこだわりが見える。
彼女自身はその大火事が起こった100年後に誕生していたため、「分銅屋」に対して何か運命的なものを感じていたそう。そうして、上のお姉さまお二人がすぐに嫁に出て家を出てしまったあとも、このお店を引き継ぐのが彼女の運命ではないかと感じ、ずっとお店を一人で切り盛りされているのだとか。
「このお店を回すことはもちろん仕事ですが、半分趣味みたいなものですから。」
にっこり笑顔でそう語ってくれた椿さん。具体的な内容には踏み込むことはなかったが、これまで数々の色んなことに手を出してきたものの、なかなか長続きすることがなかったそう。ただこの分銅屋だけはずっと続けてやってこれた唯一もの。商品も全て国産で、備品もできるだけ江戸時代のものを使うことで、古いものから力を得ているのだとか。
女性が大事なものを入れる箱
そんな分銅屋七右衛門には、「お香製品・香箱」がある。香箱というのは花柄の模様のついた六角形の箱、お香製品はお手玉とくす玉である。
こちらの香箱は、お手玉やくす玉といった女性にとって大事なものを入れるもの。およそ100年前から、作られているという。そして、椿さんが”おじゃみ”と呼んでいたお手玉。製作するのが難しいものだそうですが、色合いをいい具合にするために、上手く色のコントラストを表現しているのである。くす玉は、椿さんの娘様が製作するお香入りのもの。平安時代の習わしで、かつては魔除けとして用いられていたそう。昔は一色のものだったそうですが、今は新しく三色で提供している。
商品に関することを、こちらが聞くまでもなく、まるで台本があるかのようにここに書いている以上のことをスラスラと説明されるのがこの椿さんの真骨頂。こだわりというのはこういうことなのか、と聞いているこちらは改めて実感させられる。
「津和野はかつて観光で盛り上がった街ですが、今はそのブームも去って意気消沈しております。」
この分銅屋の建物自身、その歴史を評価されて、指定登録文化財になっている昔の時代の息遣いが感じられる建物となっている。
古きよき日本伝統工芸の素晴らしさと椿夫人のこだわりが詰まった「お香製品・香箱」。
ぜひ津和野の分銅屋にこられて、商品をお手にとってその素晴らしさを実感してみてくださいね!
※情報は記事を公開した2016年10月時点のものです。最新情報は店舗へ直接お問い合わせください。
《分銅屋・七右衛門》
〒699-5605 島根県鹿足郡津和野町後田ロ−190
TEL:0856-72-0021
(文/前田健吾)