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2020.01.15

津和野を訪れるヨーロッパ人 〜リアルな日本を求めて〜

1、観光地としての津和野

 

1970年代にはアンノン族(an・anやnon-noといった女性誌を片手に観光に訪れた多数の若い女性の総称)で賑わった観光地としての津和野。今や深刻な過疎化が進み、50年前の風景をそのまま残した、どこを歩いても寂しさを感じさせる町となった。

 

そんな津和野町は今、「Iターン者を多く受け入れる町」、「0歳児からの人づくりプログラムに取り組む町」、などとして時折メディアに取り上げられるが、実際のところ衰退のスピードに改革が追いついていないと感じる。筆者は2018年4月から津和野町へ住んでいるが、2018年には7500人ほどが暮らしていたが、2019年には10月末現在7284人と200人以上も減少している。町の発展は、人数だけでは測れないが、経済の回し手が減ってしまっては、資本主義国家の統治下にある我々の生活がますます質素になっていることは言うまでもない。

 

さて、それでも週末や大型連休になるとSL列車や癒しを求めて、観光客がやってくる。その多くは大型観光バスに運ばれてきた団塊世代の人々。その次に広島や山口と行った隣接する他県からの子育て世代やカップルが数組見かける。実感として、年齢が50代以上の人は全国的に、観光地や修学旅行先として津和野を知っているが、20・30代だと地名さえほとんど聞いたことないという感じだ。

 

そんな中、ポツポツと若い外国人観光客が歩いている姿も珍しくない。みな動きやすい服にリュックスタイルで、旅慣れている印象だ。一体なぜ、津和野を訪れているのだろうか?

 

 

2、交流したい!旅人とホストをつなぐ「カウチサーフィン」

 

 

ウェブサービスで「カウチサーフィン」というものがある。これは、世界の旅人と宿泊場所を提供するホストとを結びつけるサービスで、旅人が現地に住む人の家のカウチ(couch=ソファ)で寝泊まりし、ネットサーフィンのように気軽に旅できるサービスだ。お金のやりとりは発生しないので、お金をかけずに泊まりたい、現地の人と交流したい、という旅人と、普段の暮らしている場所で国内外の色んな人と出会いたいというホストがサービスを利用して交流を図っている。

 

筆者も昨年「全米で一番住みたい町」にも選ばれた米オレゴン州ポートランドを訪れた際、現地の人とゆっくり話がしたいと思い、サービスを利用した。そして今年10月、津和野でも海外の人と交流したい、文化や考えを知りたいと思い、カウチサーフィンにホストとして登録した。すると早速ルーマニアからキャンピングカーで旅をする4人家族から連絡がきた。その後もスペイン、ドイツ、イタリア、フランス人、2ヶ月半で約10件もの連絡がきた。不思議なことに、みなヨーロッパの人ばかりで、その多くは日本やアジアを長期に旅している人ばかりであった。

 

実際に話してみると「仕事を辞めて旅をしている」「長期休暇を使ってきた、」「色々な日本を見てみたくて」など旅慣れている人が多い。理由はさまざまだ。

 

みなに等しいのは、津和野へは日本の山の風景などに魅せられてたまたま訪れたということ。

そう、世界の旅人にとっていわゆる「観光」をしにくるところではなく、「リアルな日本」を見にくるところなのである。東京、名古屋、大阪のように、最先端で身を固めたような都市ではなく、ある時代から手付かずの地や、生活の場としての日本を見たいのだ。

 

 

3、働いて、旅をする、ヨーロッパ人

 

海外からやってくる中で他のアジア圏でもアメリカ大陸でもなく、ヨーロッパ圏からばかりくるのはなぜか。それは何よりヨーロッパ人の働くことに対する意識に由来する。それぞれの国によって多少の違いはあるが、「働く=自分の特性を生かしてお金を得ること」であり、「自由な時間は自分の好きなことをする」。若い人だと自分を高めたり、色々な世界を自分の目で見ることに費やす傾向にある。多くの日本人に見られるような、「仕事があるから〇〇ができない」というスタンスではなく、「〇〇をしたいから仕事をやめる」そのような選択をしている人が比較的多い印象である。また、お金より時間という意識が高く、自由な時間を稼ぐために、なるべく短時間でお金を生み出し、自分の時間に使う。

ヨーロッパでそのような価値観が根付いているのは、先進国が集っているからだけではなく、資本以外のもの、すなわち歴史や文化、芸術の価値を重んじる余裕を持っているからではないだろうか。その結果、今ではマイナーになってしまった津和野に、ニッチな若い旅人が訪れるようになったのだ。

 

4、津和野はニッチな観光地

 

見出しのように、津和野は京都や萩のような文化的建造物による観光地として振る舞うより、そのニッチさを前面に押し出し、リアルな日本の暮らしを知れる場所として押し出したほうが、市場価値は高い。

 

スペインからきたJavierによると、彼は他のスペイン人のブロガーの記事を読んで、アジア旅の途中、津和野を訪れたという。そのブログの中で、津和野は「サムライロード」があると紹介されていたようで、城下町の景色を一目見るために来ていた。しかし、実際はそれよりも広がる田んぼやありのままの景色に魅せられたり、共に過ごした時間や会話による充実度の方が高かったようだ。

 

ルーマニアからキャンピングカーに乗ってユーラシア大陸を南下し、境港を経由しやってきた家族4人組みは、まさに暮らしながら旅をしていた。この世界旅行は夫婦が学生の頃からの夢で、ヨーロッパを旅してルーマニアに戻って間も無く、また旅を始めた。7歳と9歳の娘さんは、小学校を休んでこちらにきているが、その間に意思疎通できるくらい英語が話せるようになったという。特に楽しみにしていたという日本では、おにぎりに目が無いといい、町内のスーパでもおにぎりを探していた。ゆっくりとした時間を過ごすのにも人混みのない津和野は魅力的だったようで、人目を気にせず家族で町を堪能していた。

 

また、つい先週2泊3日訪れたドイツのライプツィヒからきたカップルは、太鼓谷稲成神社や城跡などの定番スポットには出向かず、永明寺で初日のほとんどの時間を過ごしたと言っていた。何かスピリチュアルなものを感じたようだ。家ではお鍋をつつきながらライプツィヒの様子や、筆者からみる津和野町と日本の現状を話しあい、「デモを起こした方がいいのでは?」という議論にまで発展した。翌日も乙女峠からさらに山奥まで散歩を楽しんだようで、別れる際に、一緒に夜を過ごしたり、色んな状況を話してくれて、それが何より印象的だったと言ってくれた。

 

ルーマニアからキャンピングカーでユーラシア大陸を渡ってきた家族。

 
コタツに夕飯のお鍋、日本式の団欒を楽しむカップル。

 

 

5、津和野の価値を誰に届けるか

 

日本人にとって、国内観光の目的は普段は食べられない食べ物、行けない温泉、豊かな自然、建築、ほとんどは非日常を求めている。しかし、海外、特にヨーロッパからの旅人にとっては、津和野で営まれる穏やかで自然と共生した日常が何よりの体験価値となる。

 

今一度、「観光地」としての津和野を見直し、「リアルな日本の暮らし」を海の向こうへアプローチをはじめてみたら、町に新たな風が吹くのではないだろうか?

 

(文・イラスト写真/髙田菜津子)

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