【コラボ連載】都市を科学する×つもよ〜高校生編〜②高校生の動きは、町にどんな影響を与えているのか。
「都市を科学する」とのコラボで、高校生と町の関係を探る連載の後編(前編はこちらから)。
高校生が活動するとまちは?
「困りごとを助けてもらえた」
「地域を誇らしく思えるようになった」
「若者から学ぶことがあると気付いた」
前編からは、津和野町内の高校生が活発に活動している要因として、地域と大人の距離が近いことや、大人が高校生を子ども扱いしすぎないことが見えてきました。
それに対して後編では、その高校生が町・社会にどんな影響をもたらしているのかを考えます。
|高校生を受け入れる土壌は、いかに形成されたのか
そもそも町の人はなぜそこまで高校生との距離を詰めることができているのでしょうか。
■大人の危機意識
津和野高校は、統廃合の聞きに直面する中で、様々な取り組みを「高校魅力化」という形で推進してきました。現在では、地域と高校、町の三者で教育の将来を語り合う場を設けるなど、大人が高校生のことを考える時間が増えていきました。
(トークフォークダンスの内容も、高校と町の大人が一緒になって考える)
■高校生に対する見方が変わってきた
平成25年に津和野町で大きな水害が発生した際、当時の津和野高校生はボランティアとしてその復旧支援に積極的に参加。
そんな彼らの姿を見て、大人達も高校生への見方が変わりはじめます。どんな想いを持っているのか、どんなことができるのか、その一端を感じた出来事は、地域における高校生の役割や可能性を見出すきっかけになりました。
大人が高校生のことを考え、信頼するようになったことが「受け入れる土壌」の基盤にありそうです。
|高校生の存在は、町にどんな影響を与えているのか
「やってみたい」という気持ちから町に出ていく高校生が、社会や町にどう影響を与えるのか。事例をもとに探っていくと以下の3つの価値が見えてきました。
・直接的で分かりやすい成果(困りごと解決や価値創出)
・「アイコン」的効果(社会への発信や地域の誇りの醸成)
・まち全体にとっての「気づき」「学び」の材料としての効果(内省や発見を促す)
①直接的で分かりやすい成果
■価値創出
先日記事でも紹介したように、近年海外からも多くの観光客が訪れる津和野。そのお土産として親しまれている源氏巻を扱っている和菓子屋にも、海外の方が来るようになりました。しかしお店の人は、和菓子に馴染みがない海外の方に商品の魅力を伝えることに苦戦していました。
そんな状況を救ったのが、津和野高校生徒の活動。「外国人観光客に、和菓子の魅力を伝えたい」という想いから、商品を英語で紹介するポップを作成しました。
(津和野高校の生徒によって作成されたポップ。合わせて、源氏巻をイメージした可愛らしいぬいぐるみも作られた)
魅力を的確に表現されたポップは大好評。商品選びに困っている海外の方に見せるとすぐに理解してくれるため、お店の人にとってマストアイテムとなっています。
他にも高校生が町で活躍した事例としては、文化施設での商品デザインしたり、美術館でコンサートを開催したり、自分たちで作った野菜を使って町の人に料理を振る舞ったり、読書会を主催したり、町のお祭りに自分たちで出店したり。その活動はここに書ききれないほど多く、また活動の仕方も多様です。彼らの活躍の成果は町のいたるところで見ることができます。
高校生の「やってみたい」は、町の人が感じている「困っているけど、なかなかできないこと」に対して、大きく貢献できる余地がありそうです。
②「アイコン」的効果
■社会への発信
そんな数ある事例の一つとして、安本沙羅さんによる栗農家さんの営む「千舎の木」というお店の栗羊羹の英語メニューを作成する取り組みは、NHKの番組内でも取り上げられ、津和野の高校生が町に出て活動する様子が、全国的に認知される機会となりました(動画)。
また安本さんは、津和野高校を発信する映像作品を友人や町の人と協力して作り、YouTubeで公開もしています。
(投稿されている動画。作詞や踊りの振りなども自分たちで行った。)
動画は7,000回以上再生されたり、SNS上でも拡散されたりするなど、大きな反響がありました。
このように、「高校生が地域の中で活躍する」ことは社会的インパクトが大きく、メディアに取り上げられたり、SNS上で話題になることも少なくありません。
■地域の誇りの醸成
一部の町の人にとって、津和野高校は昔「荒れた学校だった」という印象があるため、自分が津和野高校出身であることを恥ずかしく思っていた人もいます。しかし高校生が地域活動の場へ積極的に参加したり、自分たちのやりたいことに夢中で動いたりしている様子は、津和野高校卒業生にとっても誇らしく思える出来事です。その結果として、津和野高校出身であることを「誇り」と思えるようになっている、という声を聞きます。
③まち全体にとっての「気づき」「学び」の材料としての効果
■高校生”から”学ぶというパラダイムシフト
津和野高校で毎年秋に行われているトークフォークダンス。参加した大人の感想で多く挙げられるのは「高校生が、しっかりした考えを持っていることに驚いた」という声。自分と似たような回答が返ってきたり、若いなりの視点で捉えていることを論理立てて話せている様子は、大人にとって衝撃的で、高校生への認識を改める機会にもなっています。
参加者の中には「高校生の回答から気付きを得ることもあり、内省するきっかけになった」と刺激を受けた様子を語る方もいらっしゃいました。
(トークフォークダンスは、学生と同じくらい多くの大人も学びを得ている。)
大人の学び場として設定した「未来の教科書」では、中高生の参加も見られ、会場の大人たちは彼らの「やりたい」熱意をヒシヒシと感じ、それが自身の励みにもなったり、中高生の意見から学びを得たりしていました。
また町の若者有志で組織された「思うは招こう会」では、高校生のプロジェクトの状況を参考に活動を進めたり、高校生の想いを受けて活動のサポートをしたりしています。
自分なりの考えを持ち、自分の言葉で語り、やりたいことに夢中になって動く。高校生のそんな行動が、町の人たちにとっても心理的な影響を及ぼし、励みになったり実際にアクションを起こすことにつながったりし始めています。
高校生が「教わる」だけの立場から、学びを与える存在にもなりうるというパラダイムシフトが、この町には起きています。
(高校生が主催したイベントの様子。高校生のプレゼンテーションを真剣に聞き、議論をした)
2020年2月に行われたつわの生き方留学という大学生向けツアーのコンテンツでは、高校生が議論テーマを提示し、大学生・町の大人が本気で議論をし、様々な気づきを得ていました。
町の人たちと交流した大学生からは「この町の人は、双方に学ぼうとする姿勢があると感じた」という声が聞かれました。
|まとめ
地域と高校生の距離が近くなることで、お互いの理解が深まる。町には高校生を受け入れる土壌ができ、高校生は自分の「やりたい」に向けて活動をやりやすくなる。その結果として、地域の人の活力や、学び・成長のきっかけになっています。
一方で、津和野に住みながら周辺地区の高校に通っている高校生からは、中学までは多くの世代との交流があったのに、町外の高校に出たことで地域と関わる機会がなくなってしまったという声も聞かれます。津和野で過ごす時間が減っても、地域との関係性をつなげるような取り組みが求められるのかもしれません。
年功序列の組織体制が疑問視され「〇〇に入れば安泰」がなくなりつつある現代。その状況は地域にも当てはまり、「町のことは誰かがなんとかしてくれる」と受け身の姿勢の人ばかりでは町が成立しなくなってきました。
一昔前は、町の空気を作り動かすのは役人や自治会長など、年齢を重ねた役職のある人だったのかもしれません。しかしこれからは年齢・所属・背景、そのどれにも囚われず町を盛り上げることができる時代。「移住者だから」「高校生だから」と除け者にしたり変な上下関係に固執せず、想い・活動を受け止めお互いに刺激し合いながら活動を活発化させることが、町を魅力的にし続ける上で大事になってくるのではないでしょうか。
そんな中で、今回の事例分析から、高校生は自分の気持ちに素直に動いたり、情報を敏感にキャッチしたりすることで、地域に対しても影響を与えられる存在になる可能性を秘めていることが見えてきました。
高校生と地域の、先進的な関係性が生まれつつある津和野町。その姿が、津和野だけで発展するのではなく、あらゆる地域にも広がっていった時、日本中の地域はもっと面白くなり、より素敵な未来が描けるのではないかと思います。
【都市科学メモ】
高校生が地域に出て活動する理由と、その活動が生み出す価値
高校生は「自分と向き合う機会」「地域への具体的なイメージ」「大人との関係性」があることによって、地域で活動する動機が生まれ、自発的に活動するようになると考えられます。津和野町ではそのきっかけとして、高校のさまざまな総合学習のプログラムや、地域の大人の優しさが機能していました。(前編記事内容)
そして、高校生が実際に活動することによって、「価値創出」「地域イメージ」「学び」などが大人にももたらされ、「地域の誇り」にもつながっていきます。
これらが「大人から高校生への信頼や期待」を高めるとともに、高校生自身も「自分と向き合う機会」や「大人とのさらなる接点」を自力で獲得することにもなります。仮説的ではありますが、さらなる「地域における高校生の活動」を生み出す循環がありそうです。
人口約7300と小規模で人と人の距離が近い津和野町での事例だからこそ、高校生と地域の相互作用が見えやすかったのかもしれません。大きな都市でもこうした循環を生み出すことができるのか、また考察してみたいと思いました。
<文・写真:舟山宏輝、都市科学メモ:谷明洋>
【参考】
・ふるさとチョイス